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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

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人口問題を考える/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(50)【千葉県八街市】

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 1月28日「子どもを産みたいが相手がいない」。残念ながら今日はほとんど光がない。気温はさほど低くはないのに、だから肌寒い。足場の悪い場所で苦労しつつ脚立を何度も移動し、梅の剪定に励んだ。手の届く位置の剪定は早くにすませてある。今日見上げると、2メートルの高さの位置に花を持たないムダ枝がだいぶ残っている。梅の花にしてみたら不満であろう。肩が触れてるわ、邪魔なのどけて、もっとスッキリ、いい気分で、わたしたちを咲かせてヨ・・・そんな声が僕の耳に届いたのだ。

 脚立の上でパチパチ、ハサミの音をさせている時、ふと、昨夜の6チャンネル、ニュースキャスターでの特集を思い出した。熊本に台湾の半導体メーカーの工場が進出した。半導体にはきれいな水が必要。進出した町はその条件を満たしている。それでもって、人口わずか4万人の町がまるでバブル時代かと見紛うほどに沸き立ったというのである。通勤電車は満員。バスも満員。飲食街はイエーイッという歓声で大賑わい。畑をつぶしてのマンション建設のラッシュ、3DKの家賃が15万円。工場近辺には広大な体育館やアミューズメントパークも出来るという・・・。そのわけは。給料が高い。パートの単純労働でさえも最低時給が1300円。従来からある地元の会社や店では人員確保に苦労するほどの賃金格差。6チャンネルはさらに、群馬だったかに進出したIKEAとかいう会社のことも紹介していた。なんとこちらはパートの最低時給は1500円。すごいなあ・・・ベッドから顔を出し、テレビを見つめる僕は独り感心した。時給1500円で毎日6時間、月に20日働いたとしても月収18万円。毎日9時間、月に31日働くオレよりも収入は多いじゃないか・・・。べつにひがんだわけじゃない。地方の疲弊、人口減少が取りざたされることしきりの今、地方復活の切り札は案外と単純、外国企業を誘致すればいいのだな・・・そのことに僕は感心したのである。でも、どこもかしこもそんな真似ができるはずもない。きれいな水が沸くわけでもない、遠方からドッと買い物客がやってくるほど足の便がいいわけでもない・・・我が町がそうである。先ほどの熊本の町。若い労働者が集まれはカップルが増える。子どもの数も増えるだろう。都市と地方の格差に加え、これからは、地方と地方の格差も生まれるのかもしれない。

 人口減少ですぐ思い浮かぶのは中国の現状である。昨年、一昨年と、2年連続で減少するのは、毛沢東時代、政策の失敗で多数の餓死者が出た1961年以来。2023年の出生数は前年に対して54万人減の902万人。かつての「一人っ子政策」を2015年に廃止、今は第三子も容認されているが出生数の増加にはつながっていないという。若者の失業が深刻で、出産にためらいがあるらしい。前年比54万人減という出生数それ自体はさほど驚くほどの数字でないような気もするが、死亡者数は1110万人。65歳以上の高齢者は総人口の16%余りだというから人口減少はさらに続く。人口減少に関しては多くが悲観論だが、人の数が減ることで、かえって緩やかな暮らしが出来るという楽観論もある。未来予測としてはどちらが正しいのだろう。ひとつの例として食糧。日本の自給率は30%ないし40%。人口減少が進めば相対的にこの数字は高くなると考えてもいいか。いや違うかもしれない。生産者も当然減る。日本の農業従事者の多くは65歳以上だというから、その人たちがいなくなれば自給率は今のまま、ひょっとすると低下とも考えられる。中国における人口減少は内需が衰退し、市場や労働力の縮小が予測されるという。ひいては世界経済にも影響が出るという。僕はある時おかしなことを考えたことがある。爆発的に増えた人間を背負い、毎日ぐるぐる回転している地球はどんな気持ちでいるのだろうかと・・・。絶え間なく勃発する戦争。油や煙、破壊されたミサイルの残骸でその顔を汚される。人口減少が懸念される一方で、増え続ける人間の食料確保のため原生林をどんどん伐採する国だってある。こんな息苦しさ、体の重さなんて生まれてこのかた感じたことがないよ。毎日ぐるぐる回転するのにも疲れてしまったよ、ぐるぐる回るのはもうやめにしようかな・・・そんな独り言、愚痴なんかを地球という生き物はこぼしたりしてはいないだろうか・・・。

 子どもを産みたいが相手がいない・・・そんな悩みを読売新聞の人生相談に寄せたのは30代の女性である。読みながら僕が驚いたのは、彼女は4人姉妹。それが全員結婚しておらず、「彼氏もいません。このまま全員が結婚できず、両親に孫の顔を見せられなかったら、こんな親不孝はないと思います・・・」彼女はそう言う。

絶対に子どもを産みたいけれど相手がいないと焦ります。20代後半から婚活を続けてきましたが、出会うのは付き合いたいとも友達になりたいとも思わない変な男性ばかり。付き合った人はモラハラがひどく、男の人を信じられません。夫はいらないから精子提供を受けて子どもを産み、ひとりで育ててもよいとまで思えます。自分磨きも十分していて、まじめに働き、貯金もしているのに、なぜ神様はこんなに不公平なのでしょう・・・。

 たしかに神様は不公平だと僕も思う。同時に、変な男ばかりに出会ったという彼女の不運にも同情する。男の立場から逆の事を言えば、僕には「変な女ばかりに出会った」という経験はない。これとて不幸には間違いないが、こちらの気持ちを受け入れてもらえなかった、つまり我が好意は一方通行に終わった、それだけである。昔だって同じだが、人間には好みがある。食べ物だって、趣味だって、ファッションだって。異性への好みもそれと同列だろう。ただ、昔よりも厄介なのは、前面に押し出される選択の条件が、収入だったり、家事・育児の分担だったりすることかもと僕は思う。かぐや姫が歌う『神田川』。悲恋には終わったが、若い二人は小さなアパートで暮らし、洗面器を抱えて一緒に銭湯へ行った。僕が10代の頃に暮らしたアパートにも3畳一間に20代初めくらいの男女がいたのを思い出す。風呂はなく、ふたつしかない共用の、裸電球がぶら下がった台所のガスコンロの前でたまに挨拶を交わした。男と女の接点、関わり方、将来に向ける目・・・それが60年前と現在ではにわかに信じられないほどの変化が生じたのかも。僕は今そんな気がしている。

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