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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月3日(月)
890円(税込)

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人口問題を考える/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(50)【千葉県八街市】

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 1月29日「我々がふだん食べている玉子、あれも卵子である」。昨夜は布団に入ってからなかなか寝付かれなかった。どうにも足が冷たいのだ。仕事柄、僕は毎日数回、天気予報を確認する。ここまで冷えるなんて、どのテレビ局でも言っていなかったと思うがなあ・・・体をエビのように曲げて眠気が来るのを待った。そして今朝、何もかもが凍っている。金魚の池も凍っている。その氷の上で、ママが割って作ってくれた(僕も少し割るのを手伝った)穴からヒヨコがおいしそうに水を飲んでいる。

 冷たい空気の中で大豆のマメ取りを頑張る。とにかくもむのだ。莢がほとんど粉になるくらいまでもみ続ける。モヤシにして出荷するため。機械に仕掛けてからモヤシになるまで、今は気温が低いので4日ないし5日かかる。2月に入ると発送荷物が連続するので大量のマメが必要になる。そして一部は春の種まき用として確保する。大量のポットを用意し、少なくとも500の苗を作るのだ。晩秋の収穫からポットまきまで半年以上。マメは倉庫の中で眠り続け、出番を待つ。触るとカリカリ、ガサガサと音のする枯れ枝がそれぞれのマメの親だ。その親の後を継ぎ、今日僕が取り出したマメたちもやがて親となる。終わりのない命の伝承がここにもある。

 読売新聞の連載「少子化 私のリアル」という記事を読む。東京都の38歳会社員が一例として登場する。彼女は1年半前、2回の手術で21個の卵子を採取し、凍結保存している。費用は88万円だったという。これからの人生をどうしようか。子どもを産むかどうかも悩んだが、「そのために恋愛するのも違う気がした」のだという。

今はやみくもに焦る気持ちがなくなった。37歳での採卵は早いとは言えないが、自分の生殖機能の限界に冷静に向き合ったことで、客観的・科学的に体の状態を知ることができ、安心感につながっている。妊娠や出産についてじっくり考えた結果、今は子どもを産んでみたい、育ててみたいと思うようになった。卵子凍結をしなかったらこうは思えなかっただろう・・・。

 今しきりと伝えられるAIもそうだが、科学技術の発達は社会を大きく変え、人々の人生をも変える。体内から卵子を取り出し、冷凍庫で保存しておくなんて20年前までは考えられなかったもの。母体は歳取るが、採取した卵子は採取当時のままの若さを保つ・・・当たり前のような気もするが、思えば不思議なことである。そして今、僕の思いは、今日、巣箱から集めてきた鶏卵へとつながる。我々が毎日食べているニワトリの玉子、あれも1個の卵子である。人間の卵子は精子との遭遇がなく、妊娠の機会を逸したものは、いわゆる生理として体外に排出される。妊娠した場合は母体の中で細胞分裂が進み、人間の姿となって生まれ出る。ニワトリの場合は・・・オスとの交尾で受精したものも、そうでないものも、カルシウムの堅い殻に包まれた形で体外に排出される。それを我々は「玉子」として食べているわけだが、もし巣箱から取らずにおくと、やがて母親はそれを抱く。ある母親が15個の卵を産んでから抱卵の態勢に入ったと仮定すると、最初に産んだものと最新のものとでは15日の時間差が生じる。しかし、有精卵は、ここ半月ばかりの零下の気温の中でも生きて、40数度の母親の体温に抱かれる日を待ち続けている。人間の卵子は母の胎内にとどまり、およそ290日を経てヒトの姿になる。一方、ニワトリの卵子はいったん排出され、一定の温度で21日間暖められることでヒヨコになるわけだ。ついでに書くと、受精しているか(有精卵)か、そうでないかは,玉子を割って黄身を取り出したらわかる。黄身の上に、ちょっと白っぽい小さな丸い突起に紐状が見えたら、それが有精卵である。

 先ほど引いた読売新聞の記事。そこには38歳女性とは別のさまざまなケースも紹介されていた。現在44歳の女性は子どもが欲しかった。36歳で結婚してすぐ不妊治療を始めた。対外受精もしたが何度も失敗。300万円以上をかけて独身時代の貯金は底をついた。52歳の夫の「もういいんじゃない」という言葉に心の荷を下ろし、これからさきは夫婦二人の生活を楽しみたいと言う。一方、36歳の男性は、結婚したら子どもがいるのは当たり前と思っていた。パートナーへのマナーのつもりで検査を受けたら、なんと自身が無精子症だった。妻には申し訳ないと思ったが、彼女は二人だけの人生も考えられると言ってくれた。そして、わずかな可能性にかけて手術を受けてみた。現在1歳になる可愛い娘を得た。そして言う。「以前は毎日飲みに行っていたが、娘が生まれてからは家族との時間を大切にしている・・・」。我が子を持つ人、持たない人。人間模様はさまざまである。

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この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

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