1人で思い描いた山暮らし。今、そばには家族がいる
山暮らしを始めてもうすぐ6年になるが、600Wの太陽光発電パネルを設置し、晴れた日は洗濯機を回せるようになったことと、トイレに壁と屋根ができたこと以外、テント生活のころからライフラインの変化はあまりない。料理は今もロケットストーブや七輪だし、風呂も空の下。千里さんいわく、その開放感は山暮らしでしか味わえない、とお気に入りではあるが、冬の間だけは湯郷温泉の公共浴場を利用している。
「車で10分も走ればスーパーもコンビニもホームセンターもありますから、生活の便は意外にいいんですよ。大変なことですか? ものを運ぶことですかね。あの山道を歩いてこなくちゃいけませんから。この薪ストーブね、小さいけど鋳物製で60kg以上あるんですよ。背負って運んだんですけど、何でもやろうと思えばどうにかなるんだなと思いました」
近藤さんがやりたかったのは生活に必要なものをできる限り自分たちでつくること。食料の自給はまだ手をつけられていないが、自宅の建築や自然エネルギーの活用など、ずっと前から思い描いていた暮らしは、少しずつ形になってきている。
「山に暮らし始めてからやること一つひとつが面白い。下草刈りから始まって、チェンソーで木を切り出して薪をつくったり、沢から水を引いたり、最初は試行錯誤するけど、いつも何か新しいことが始まるわくわく感があるんですよ」と話す近藤さん。
ただ、1つだけ山暮らしで想定外だったことがある。それは、そばに家族がいること。
オーストラリアで好きなことをして生きるきっかけを見つけ、大鹿村で自給自足の現実を見た。田舎とのつながりを持とうと全国各地を巡り、炭焼きで山仕事を学んだ。そのときまでずっと1人で山暮らしをするつもりだった。でも、妻が一緒に来てくれた。そして家族が増えた。
「いろいろな意味で1人だと、自分の思い描いたものしかできないけど、家族がいると発想に広がりが生まれます。例えばね、何かつくるにしても、私1人だったら、機能だけを考えて見た目は適当になっちゃうんですよ。でも、妻の意見を取り入れると、また違った仕上がりになる。そういうの楽しいよね」
庭の滑り台は乃空ちゃんの2歳の誕生日プレゼント。暖かい小屋は家族が安心して暮らせる場所。薪をつくるのも、ロケットストーブも、自分の楽しみだけじゃない。この場所で家族と快適に過ごすためのものだ。1人だったらもっと自分の好きなようにできたかもしれない。もっと自由があったかもしれない。でも、1人じゃ笑えない。誰かを心配してやることもできない。家族がいる暮らしは、毎日が笑顔にあふれている。
文/和田義弥 写真/青地大輔
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