掲載:2021年10月号
森吉山(もりよしざん)をはじめとする奥羽山系の山々が連なり、面積の大半を森林が占める北秋田市。なかでも特に山深い阿仁(あに)地区は、集団でクマなどの狩猟を行う「マタギ」発祥の地といわれている。この地へ移住し、自らもマタギとして活動する若者を訪ねた。
自然とともに生きる人生の師との出会い
「東京にいたころは、1時間半かけて山へ行き植物に触れていましたが、今は朝起きて、パジャマのままでも山へ行けてしまう。幸せなことですよね」
そう話すのは、広島県出身の益田光(ますだこう)さん( 27 歳)。東京農業大学森林総合科学科へ進学したのち、秋田県へ移住した。
秋田との出会いは、樹木の種子や発芽の研究をしていた大学時代。ひょんなことから、北秋田市阿仁地区に暮らす鈴木忠義さんのもとを訪れた。
「鈴木さんとお会いしたのはほんの2時間でしたが、植物が大好きで、この地で採れるオオバクロモジでお茶をつくって販売していることなどを聞きました」
かねてからの益田さんの夢だった、自然のそばで暮らすこと、植物を活かしてビジネスをすることをすでに体現している鈴木さんの生き方に感銘を受け、移住を決めた。移住後は、週3日間、営林署で非常勤作業員をやりながら、2020年には「もりごもり」という個人事業をスタート。そこでは、鈴木さんから技術を受け継いだクロモジ茶を製品化し、販売している。
マタギ発祥の地でもある阿仁地区。益田さんも狩猟免許を取得し、マタギとして地域の仲間とともにクマ猟などに参加している。
「家から一歩出れば、クマやタヌキがいるのは当たり前。人間も動物と同じ森の構成員であり、この森で生き抜くためには、銃で獲物を捕らえることだけでなく、山での歩行技術、森での道具の使い方、道の選び方など、マタギの術を体得して生き物たちとタメを張れるような存在でいることが必要なんです」
鈴木さんに出会った際、この土地にいるマタギの人数を質問したところ、「みんなマタギだ」と返答されたことは、今でも印象に残っているという。
そんなマタギの生き方を学びながら、春は山菜採り、夏は渓流釣り、秋はキノコ採り……と、目の前の自然を目いっぱい楽しんでいる益田さん。
「それでも僕は、山から授かったものだけで生きているわけではありません。川で釣るイワナもうまいけれど、魚屋で買うサバもおいしい。今日はカップラーメンでもいいかな?という日だってある。僕の場合、自給自足というよりは、選択肢が多いという感覚。決して、スーパーで買い物をする暮らしを否定するわけではないんです」
現在はマタギを本業とする人はいなくなったが、その精神を受け継ぎながら、山から授かる恵みを活かした商品開発を模索中の益田さん。目下の目標は、その売り上げの一部を集落の活動費に充て、再びマタギを生業としていくことだという。
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移住・定住支援室 ☎︎0186-62-8002
https://www.city.kitaakita.akita.jp/genre/teiju
文/矢吹史子 写真/船橋陽馬
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