ナチュラルなたたずまいと年齢を超えたかわいらしさが印象的な女優の藤田朋子さん。福島を舞台にした映画『こわれること いきること』で、元音楽教師を演じています。意外な移住体験、大好きな着物のこと、さまざまなお話を聞きました。
掲載:2023年6月号
福島弁はネイティブ!?
「震災で深い喪失を抱えた主人公の遥が、いかに再生するか? まずはストーリーに共感しました。私自身、福島での除染のお手伝いという活動をしてきて、震災への思いがあって。話題に上らなくなったからといって終わりではない。表に出てこないからこそ、人びとの心に潜むものがあるはず。あの震災で受けた傷は悲しいとか寂しいとか単純なものではないし、それを癒やすのはいまだに大きな課題だろうと」
『こわれること いきること』に出演した藤田朋子さんはそう語る。東日本大震災で家族4人を失った主人公の遥が、介護施設での出会いを通して成長していく人間ドラマ。この映画で藤田さんが演じるのは、遥の高校時代の恩師で、元音楽教師の小田由美子。
「じつは私の母親は福島の喜多方出身で、なまりもちょっとあって。私はネイティブではありませんけど、ニュアンスがからだに残っているんでしょう。方言指導の方に、『直すところはありません』と言われました。『(福島弁で)なまりは大丈夫だぁ』って(笑)」
由美子はレビー小体型認知症を発症し、遥が働く介護施設に、夫とともに入居する。
「彼女が抱えるものは一筋縄ではいきません。病は回復が難しく、遥とのかかわりで急に肯定されるものでもないでしょう。それはあの震災で失われたものと同じ。個人的には摂理として受け入れ、前に進んでほしい。だからこそ、この映画を観たあと、心に残るものが希望であればいいなと」
「でも自分が思うハッピーエンドだけが、ハッピーエンドじゃないと思うの」と藤田さんは続ける。
「自分にとって都合のいいことが起きてほしい、誰もがそう思いますよね。でもつらいこと苦しいことが起きるのは当然で。お金がないとか容姿に恵まれないとか、否定的なことばかりを取り上げて、不運だ……と思う人は多いかも。私はそうは思いません。人付き合いに悩んでも急にうまくなるわけはないし、友達が大勢いても、余計なことで振り回されてばかりいるかもしれない。そういう人にとっては、選ばれし友達と良好な関係を築く人がうらやましく映るかも。どっちの価値観を選ぶかは自分が決めればいい」
劇中、由美子の病は確実に進行する。でも傍らには常に、宮川一朗太演じる優しい夫が。
「感謝を伝えたい気持ちはあるのに、裏腹なことをしてしまう。病気がそうさせてしまうのだけれど、そのジレンマは演じていてもつらいものでした。でも、すべてを包み込んでくれる旦那さんがいるのは彼女にとって幸せなことで」
こんなシーンがある。施設の食堂で食事を始める由美子。スプーンですくって口に運ぼうとするも、自由が利かなくなった手は震えが止まらない。もう少しのところで、口に入れることがどうしてもできない。向かいで夫は、その様子を見つめている。悔しさに顔をゆがめる由美子の悲しみが、観る者の心に切なく伝わる。
「私自身、生まれつき目がとっても悪いんです。だから初めてコンタクトをしたときは、『みんなこんな感じ!?』とビックリしました。でも見えないことがノーマルな状態だったから、それ以上を望む必要もなくて。一方で、どんな病気でもそうでしょうが、今までできていたことができなくなるのはつらい。できなくなっちゃったね!と思えればいいけど、最後まで納得できない人もいるでしょう」
つらい状況にいる由美子の悲しみを自分のものにしていたときを振り返るように藤田さんは言う。
「由美子がラッキーなのは、できなくなるつらさと失うことを忘れてしまう症状とがセットになっていること。病でなくても年を重ねると、大抵の人が記憶が薄れたり、目や耳が不自由になりますよね。〝あいつが憎い〞と思ってしまうような煩悩や、見たり聞いたりしなくていいものから遠ざかって、赤ちゃんみたいにハッピーになって人生の終わりを迎える――。人間ってそんなふうにできている気がします」
そう語る藤田さん自身、なんだか楽しそうだ。その言葉はどこか、ポジティブなパワーでいっぱい。脱線しがちな話題に耳を傾けていると、つい笑いがこみ上げる。話を聞くだけで知らず知らず、こちらも元気になってくる。
「昨日も、嫌になっちゃうことがびっくりするくらいいろいろ起きたの。犬のルパンくんを病院に連れていくのに、いい天気だからと歩いて行ったんです。そしたら診察券も保険証も財布もなくて! そんな日に限って夫も留守で、持ってきてもらうこともできない。それでルパンくんの診察中、自宅へ取りに戻りました。炎天下、早歩きで。いい運動になって、ラッキー!って。それで夕方に旦那さんとお買い物に行くと、今度は駐車券をなくしちゃって……」
おっちょこちょいなのはサザエさん並み? それでいて、どこまでもポジティブ!?
「マイナスに考えないの。そのせいか、免疫力も高いみたいですよ」と笑う。
ふと、劇中の由美子を思い出す。震災、治る見込みのない病、彼女が抱えるのはそれだけでないこともやがて明らかになる。簡単にポジティブには捉えられない由美子の現実にも、藤田さんは希望を読み取ろうとする。
「遥や由美子の状況から遠くにあるどなたにも、共感していただけたら。それでも前に向かう人がいることを伝えられる作品になり、自身が抱えるものを癒やすきっかけになったらうれしい。それでいて震災のことを、もうみんなが語る必要のない日常になってほしいという思いもあるんですよね」
ガチな旅番組は得意分野!
藤田さんは東京都出身で都内在住。じつは移住経験者なのだが、それはなんのことはない、テレビ番組の企画で、群馬県桐生市に3カ月間単身で暮らした。
「桐生って全然、田舎という感じじゃないんです。観光地だから交通の便がよく、街なかを充実させようとすてきなお店もたくさんあって。住みやすいなあって」
それは事前のアポイントも、決まった行程もない〝ガチ番組〞。藤田さんは「私らしく暮らしたい」と家具屋さん、雑貨屋さんを探し、バイト先も自力で見つけた。
「これまでもガチな旅番組で、いろいろなミラクルを起こしてきて。これ得意分野かも!と思っていたんです。1つのブロックを歩くのに楽しいことがたくさん見つかっちゃって30分以上かかって。スタッフに、もうちょっと早く歩きません?と言われたくらい(笑)」
桐生でもミラクルが続出。道行く人に教えてもらった洋食屋さんで地元の家具屋さんを教えてもらい、お店の方を通してつながった市役所の職員の方にいろいろと相談して番組が完成。〝ガチ〞をうたうのに、でき過ぎなほどバランスのいい「すてきなチーム」ができた。藤田さんならどこでも、田舎暮らしを満喫できそうだ。
「私、その場に溶け込むのが好きなんです。映画やドラマの地方ロケでも必ずそこに友達ができて、今でも付き合いが続いていたりします。広島でのガチな旅番組で、前に別のロケで知り合った人に相談したりして(笑)。今回も『福島を舞台にした映画をやるから』と、個人のつながりで地元のテレビ局の広報の方に来てもらったんですよ」
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