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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

「良い」孤独、「悪い」孤独/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(25)【千葉県八街市】

 7月14日。今日も雨模様である。梅雨と夏の順序がさかさまになった、そんな感じさえする妙な天気である。朝いちばんの畑見回りで少しばかり落胆した。マクワウリとメロンが見事に食い尽くされている。メロンに歯で嚙んだような小さな傷を見つけたのは数日前だった。その時はまさか今日みたいなことになるとは思わず、完熟までもう少しだと楽しみにしていた。その矢先の出来事だった。冷蔵庫でよく冷やしたマクワウリは大汗かいて働いた日の美味なるおやつであり、エネルギーでもある。それがゴッソリ・・・。落胆したが、もしかして、アイツが犯人か、もしそうだったらいいな、許せるな。

 アイツと初めて顔を合わせたのは6月の半ばだった。その日はかなりの雨だったが、カボチャの授粉をするためにハウスに行ったら、目の前に何か生き物がいる。むこう向きでうずくまっているので、僕が来たことに気づかない。もう少し近づいて見るとタヌキだった。ああ、そうか、雨宿りしていたのか、タヌキも雨に濡れるのはイヤなんだな。僕に気づいたタヌキは立ち上がった。ハウスの反対側の出口から逃げようとした。その姿が僕には辛かった。やせ細っている。片足が傷つき、ビッコを引いている。後頭部は病気なのか、怪我なのか、毛が禿げ上がり、かさぶたになっている。

 僕は家に走った。煮物の残りとヨーグルトを鍋に入れて戻ってくると、タヌキは再びうずくまっていた。そばにいたら警戒するだろうと、距離を置いたところで草取りしながら様子を見ていた。匂いで気づいたのだろう、そろそろと鍋に近寄り、うまそうに食べた。以来、僕はそのハウスの中に食べ物を置いてやるようにした。数日に一回くらい顔を合わせる。僕は声を掛ける。たぬ子、たぬ子、ごはんだよ・・・。もしかしたら雄かもしれない。後ろ姿でキンタマみたいなものがチラッと見えたから。でも、他にいい呼び名が浮かばない。だからたぬ子だ。数日前に見たメロンの嚙み跡は、ひょっとしたらたぬ子だったか。その時はまだ完熟ではなかった。そしておそらく昨夜、一気に、完熟したメロンとマクワウリを合計15個も食った・・・それがたぬ子だったら僕は許せる、かまわない。

 それにしてもちょっと切ない姿である。野生の生き物にとって、足が不自由というのはどれほど不便なことか。後頭部から背中にかけての傷か病気かも、自分で舐めて癒すということだってやりにくかろう。鍋の煮物を食べ終わったあと、僕の足でも歩きにくい、枯れ木やツタが絡み合うヤブの中に去って行く後ろ姿が見ていて僕にはとても切ない。それでも「たぬ子」は懸命に生きているのだ。生きる意欲をまだ失ってはいないのだ。がんばれ、明日もまた来いよ、待ってるぜ、たぬ子。

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