7月15日。ランニングの時はわずかな霧雨だった。朝食をすませ、ピーナツとブロッコリーの畑に向かう。これで何度目か。取っても取っても草は生える。ピーナツは斜面ということもあって、株元の土が流されている。草を取りつつ、流された土を寄せてやる。1時間ほどした頃だったか、叩きつけるような雨になった。やりたいと思っていた作業はもう少し残っている。このままやっちゃえ、ついでだ、やっちゃえジイサン、こんな雨くらい。頭から雨水をしたたらせつつ、納得いくまでやった。11時、いったん部屋に戻った。
テレビの話題は今どの局も宗教である。元首相が銃撃された。銃撃の理由は、母親が宗教にのめり込み、多額の献金をして家庭が崩壊した、その宗教と元首相が密接につながっていると思ったから・・・との供述だったことによるらしい。今日、朝食しながら見たテレビには、東大に入学してまもなくいま問題になっている宗教団体に勧誘され、さまざまな経験をし、現在は大学教授となっている方が若い時代のことを語っていた。そこに挙げられた、勧誘に乗った理由とは、田舎から出てきたばかりの若者としての不安、劣等感、そして孤独感だったという。
世間をにぎわせているそんな宗教について、ガールフレンド「フネ」と僕は少しばかり語り合った。フネにも、怪しげな自己啓発セミナーに通い詰めていた友人がいるのだという。手相見とか姓名判断とか方位とかにはまる人も身近にいるのだという。それを聞いて僕はつぶやいた。そういうのって、言うならばすべて他力本願の行為だよなあ。オレなんか、自分で勝手に自分の神様や仏様をこしらえて信心してきた。自己啓発も、自分が講師となって、自分に教えてやった。結果、オレは原始人になったのだ・・・。
僕を原始人と命名したのはフネである。ゴキブリ、ネズミがぎょうさん徘徊する部屋で暮らしても平気。焼け付く畑で何時間働いても平気。穴だらけのシャツやパンツを全く気に掛けない・・・でもって原始人ということになった。僕にとっての神や仏は太陽であり、月であり、光や風であり、鬱蒼たる木々の森である。手のひらをちょっと見たくらいで人の運命がわかるものか。先祖の祟りが300万円の壺を買って床の間に置くくらいで消え去るものか。自分の行動は自分で決めるのだ。自分の手足と、乏しいながらも、そこそこはあるだろう自分の知恵で人生を作るのさ。それでダメなら自己責任、オレはそう腹をくくって生きている。食い物を含め、全てを自前で調達して暮らすのだ・・・。
そう言う僕に対して、フネは言葉を足した。なるほど、おとうさんは自前の神や仏と努力でもって原始人になったのネ。わたしは・・・出前でもって普通の人間になった・・・。「出前」は「自前」をもじったダジャレである。フネはあくまでも、僕が普通の人間じゃなく、原始人なのだと笑顔でもって宣言したのである。そして最後に彼女はこうも付け加えた。おとうさんは立派な原始人かつ原子人。いつかわたしは「中村顕治おもしろ館」を作ろうと思ってる。モモヒキやパンツを展示したり、おとうさんの蝋人形も作るわ、ふふっ、楽しそう・・・。
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