暑くなると、ぐんぐんと草が伸び、ほっておくと大変なことになる。家の周囲や町内の草刈りなど、田舎では草刈り機(刈払い機)は必需品だ。初心者でも安心して使えるように、草刈り機の種類や選ぶポイント、そして安全な使用方法を、プロに聞いた。
掲載:2022年7月号
安全に使用するためには、きちんとした知識が必要
田舎では夏になると家の庭や周囲に草が生い茂り、草刈りをしなくてはならない。また、地域の作業として道路やあぜ道などの草刈りもある。
「業務としてや公の場で草刈り機を使う場合には『刈払機取扱作業者』の安全衛生教育を受けることが求められています。家の敷地内なら必要ありませんが、草刈り機は危険を伴うものなので、安全に使用するために正しい知識を得ておいてください」とコベルコ教習所㈱ 宇都宮教習センター センター長・村上義広さん。
刈払機取扱作業者は、今回教えてもらったコベルコ教習所㈱などの企業や団体が行っている「刈払機取扱作業者安全衛生教育」を受講することで取得できる。内容は、草刈り機に関する知識、使用する作業に関する知識、点検および整備、振動障害およびその予防、関係法令についての座学講習と、実技講習の6時間。受講料は同社宇都宮教習センターで1万2000円だ。
「草刈りでは、なにより安全が第一。まずは装備をきちんと整えましょう。保護具などを着用することが、ケガを防ぐことにつながります」
肌が出ないように服装は長袖・長ズボン。手袋は、できれば振動障害の予防措置として充分な防振機能を備えたものがおすすめだ。飛散物から顔を守るフェイスガードもしくはゴーグル。足元にはすね当てを着け、靴は安全靴ならより安心だ。
「草刈り機は、小さなチェーンソーと考えてください。刃が当たれば大ケガにつながります。また作業中に石や枝などが飛び散って当たる危険性もあります」
チップソーとナイロンコードの使い分け
草刈り機には、動力や刈刃、形状などによってさまざまなものがある。
動力は、電動式とエンジン式があり、電動式はバッテリー型が主流となりつつある。
草刈り機の刃は、主に金属刃、チップソー、ナイロンコードカッター(以下、ナイロンコード)の3種類(適した作業環境は下記の表を参照)。
「まったくの初心者なら、まずはナイロンコードを使ってみましょう。キックバックが発生しないので安心です。ただ飛散物はナイロンコードのほうが拡散しやすいので注意してください」
キックバックとは、刈刃が障害物や地面などのかたいものに接触した際、草刈り機ごと刈る方向とは反対側に強く跳ね返される現象。金属刃やチップソーで起こるが、ナイロンコードでは発生しない。
「慣れてきたら、パワーが必要なときはチップソー、障害物があるところではナイロンコードと使い分けるのがおすすめです」
草刈り機の「動力」による違い
■エンジン式
電動式・充電式に比べてパワーが大きいのが特徴。エンジンを動力とする草刈り機には、4サイクル式と2サイクル式がある。2サイクル式では、ガソリンとエンジンオイルを混ぜた混合燃料を使用し、4サイクル式は通常のガソリンを燃料として使う。また2サイクル式は、4サイクル式に比べ重量が軽く、始動性が高い。
■電動式・充電式
エンジン式に比べて重量が軽く、作業音も少ない。また、スイッチを押すだけで始動するなど扱いやすく、初心者や家庭での使用向き。コード式のものは、コンセントがないと使用できない。充電式は使う場所を限定しないので便利だが、バッテリーの残量に注意して作業する必要がある。
草刈り機の「刈刃」による違い
草刈り機の刈刃は、主に、金属刃、チップソー、ナイロンコードの3種類がある。最近は、金属刃より、刃先に超硬合金のチップを付けたチップソーが主流。刃によって適した場所があるので、用途に応じて使い分けよう。
草刈り機の「形状」による違い
形状は、肩掛け式と背負い式。肩掛け式は、ハンドルの違いで、Uハンドル型、ループハンドル型、ツーグリップ型(一本桿型)の3つ。
Uハンドルは、振り回し操作がしやすく、振動がハンドルに伝わりにくい。広く起伏のゆるやかな場所での作業に適し、汎用性が高い。ループハンドル型は、平坦地から斜面まで使え、長時間の作業におすすめ。両手でシャフトを握るツーグリップ型は傾斜地での作業向きで、林業関係者の利用が多い。
背負い式は、エンジン部を背中に背負うタイプで、操作桿が楽に動かせ、長時間の使用でも疲れにくい。
使いやすさや使用状況などに応じて仕様を選ぶと、より安全で快適に草刈りができる。
草刈り機のおすすめモデル
草刈り機は、使用者の体力や環境に合わせて使いやすいものを選ぶ。初心者には、取り回しのいいUハンドル型や軽量タイプのループハンドル型がおすすめ。また、両手が自由に使える背負い式は作業が安定するので、慣れない人でも使いやすい。音や排気ガスが気になる住宅地なら電動式、長時間の作業なら背負い式か軽量モデルなど、使い勝手を考えて選ぼう。
刈る方向は「右から左」。すり足で移動
草刈り機での作業時は、ハンドル(またはグリップ)を軽く握って構え、上体をまっすぐに起こし、両足を肩幅に開いて右足は半歩前に出すのが適した姿勢。足は刈刃に近づきすぎないようにし、刈るときは作業者から見て「右から左」が鉄則だ。
「刈刃は左回転(反時計回り)します。回転している円の左上3分の1部分を使って刈るため、常に『右から左』への一方通行で刈るようにします。往復で刈ると、キックバックが発生しやすく、切り株の小片も飛散しやすいので大変危険です。また飛散防護カバーを外したり、チップソーに結束バンドを取り付けたりといった不適切な使い方は、危険なのでしないでください」
移動するときは、大股では歩かず、小刻みのすり足。前進は右足(傾斜地では山側)から、横移動は移動方向の足から行う。
「小石や空き缶などの障害物がある場所では、最初に高い位置で刈り、除ける障害物は取り除いてから低く刈り込む2段刈りをします。取り除けない障害物が多い場合はナイロンコードを使いましょう」
草刈り機では周囲の人がケガをすることも多い。草刈りをする際は、お互いの距離をとることも重要だ。草刈り機を使用している人の半径5m以内は危険区域なので、ほかの人は絶対に立ち入らないこと。また複数で作業する場合は、15 m以上離れるようにする。
「作業が進むにつれ、距離が狭まりやすいので注意しましょう。また作業中に近づく際は、笛などで合図をし、エンジンが止まったことを確認してから近寄りましょう」
今回、筆者は初めて草刈り機を扱ったが、スイスイと草が刈られていくのは気持ちよかった。刈刃が少し怖かったが、すね当てなどの装備があることで安心できた。きちんとした装備と知識で安全に草刈りをしたい。
屋外作業では注意しよう!
■ハチ
草刈りが必要な時期は、最もハチに刺されやすい時期でもある。まずは巣を見かけたら刺激しないようにする。またハチが反応する、香りの強い香水やヘアスプレー、化粧品、黒い服は避ける。万一、刺された場合は毒針などを取り除き、ポイズンリムーバー(写真)で毒を吸引するなどの応急処置をしたのち、医師の手当てを受けること。
■熱中症
屋外での長袖・長ズボンでの草刈り作業は熱中症を起こしやすい。初期症状は、頭痛、めまいや吐き気、気が遠くなる、筋肉の痛みやけいれんなどだ。風通しのよい日陰で休む、ナトリウムを含む経口補水液や飴をなめる(写真)、空冷服を着用するといった対策をしよう。
文/水野昌美 写真/鈴木千佳 イラスト/関上絵美・晴香
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