自然豊かな山県市を代表する特産品に「伊自良大実柿(いじらおおみがき)」という、渋が非常に強い柿がある。かつては柿渋染めの原料として欠かせなかったが、化学染料の登場とともに柿渋は一時製造が途絶えた。そんな柿渋を地域住民らが復活させ、その魅力を発信している加藤さんの工房を訪ねた。
掲載:2023年6月号
システムエンジニアを辞め地域おこし協力隊に
里山風景が広がる山県市伊自良地域。秋の風物詩として知られるのが、伊自良大実柿の「連柿(れんがき)」。伝統的な干し柿のことで、藁(わら)に吊るした柿がまるでオレンジ色のカーテンのように軒先を彩る。そんな伊自良大実柿の魅力を発信する「柿BUSHI」を営むのが加藤慶さん(37歳)。
前職は東京都内の大手金融機関のシステムエンジニアだったが、「サラリーマンは好きなことだけを仕事にできるわけではない。いつしか何かを形にする職業にひかれるようになりました」。
そんなとき、地域おこし協力隊や山県市の存在を知る。
「山県市の自然の豊かさにひかれ、伊自良大実柿の存在や、柿渋染めの技術にも興味を持ちました。しかし柿渋は製造が途絶えていて、地元でも存在を知らない人が。ネット検索をしてもほとんど情報がない。でも、〝余白〞がある状態だからこそ、自分の仕事になるのではと、地域おこし協力隊に応募したのです」
仕事は主に伊自良大実柿の普及活動。地域と積極的にかかわることで、山県市や伊自良大実柿にさらにひかれていった。
技術や商品の開発は得意だが営業は苦手
個人事業主となることを決意。柿渋染め、干し柿販売、山県市の観光に関することを生業とすることとなった。特筆すべき仕事は、柿渋の原材料づくり。
「伊自良大実連合会に入れていただき、みなさんと放棄畑の草刈りや柿の収穫を行っています。収穫期は年に2度あり、干し柿用は11月初旬ですが、柿渋用は8月。青い柿を約5㌧収穫し、岐阜県池田町(いけだちょう)にある業者でつぶしてもらい、原液を保管しています」
この柿渋を用いて染色するのも加藤さんの仕事。何度も繰り返し作業し、染め具合を追求していく工程は、システムエンジニアだった加藤さんの気質に合っている。最近は大手企業から染色の依頼が入り、染色代行の仕事も増加。また、柿渋は防腐効果があることから、木製品の塗装にまで広がりを見せている。地域の特産を活用し、半世紀途絶えていた技術を復活させる活動に共感する人が増えているのだ。しかし、「これは自分だけの力ではない」と加藤さんは言う。
「自分は染色の技術や商品の開発などを考えることは好きなのですが、営業は苦手。ビジネスパートナーや地域の方に協力いただいていることが大きいです。お世話になっている地域のために、今後も伊自良大実柿の魅力を発信していきたいです」
田舎でお店を開くためのアドバイス
ほかの誰もやっていない“余白”を見つけて、それを形にすること。地域性やオリジナル性も追求し、自分の立ち位置をつくるよう意識しています。ただ、ひとりよがりにならないよう、自分のことを客観的に見ることも必要だと思います。
利用した開業支援&補助金▶「山県市中小企業等活性化補助金」を活用しました。補助対象事業がいくつかありますが、地域課題解決に効果のある事業に、3分の2(上限80万円)の補助金が出る「創業型事業」を選択しました。
【山県市】移住支援情報
子育てしやすいまちづくりを目指し、多彩な支援で子育て世帯を応援
第2子以降を出産した市内在住者には、第2子10万円、第3子20万円、第4子40万円、第5子80万円、第6子160万円、第7子以上320万円の赤ちゃんほほえみ応援金を支給。乳児の保護者に対しベビー用品の購入に要する費用としてベビー用品応援金4万円を支給。0〜2歳児保育料の無償化など、さまざまな子育て支援を行っている。
問い合わせ/子育て支援課 ☎0581-22-6839
https://www.city.yamagata.gifu.jp/site/yamanavi/
文/横澤寛子 写真/田中貴久 写真提供/山菅敦史
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