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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

荒れ地の開拓でクレーン車も壊れた! ご近所さんに愛される絶景パティスリー【愛知県美浜町】

海岸線を見下ろす丘の上にポツリとたたずむパティスリーは、夫妻が長年描いてきた夢を実現させた場所。開業してしばらくは店がなかなか認知されなかったというが、その魅力は次第にクチコミで広がり、今では遠方から通うファンも増えている。

掲載:2023年6月号

愛知県美浜町の風景
【愛知県美浜町(みはまちょう)】
知多半島の南部に位置し、東は三河湾、西は伊勢湾に面している美浜町。温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、のどかな田園風景が広がる。知多半島の東側にも、西側にも名鉄電車が走り、各路線で名古屋駅へ約50~60分。中部国際空港へは車で約20分と、県外や海外へも好アクセス。(写真提供:あいち美浜町観光協会)

 

探し求めて巡り合ったのは、タケが生い茂る放棄地

愛知県美浜町へ移住した長瀬さん夫妻のパティスリー「フレベール ラデュ」

傾斜がかかった1000坪ほどの敷地に店舗と自宅があり、木々の間から三河湾が見える。畑には果樹やハーブを植え、洋菓子に使用している。

フレベール ラデュ
長瀬岳二(たけじ)さん・富美子(ふみこ)さん

オーナーシェフの岳二さんは和菓子店の生まれ。勉強のため名古屋から東京製菓学校に行き、東京の洋菓子店で5年間、大阪で5年間修業。その後、愛知県豊明市で独立開業。20年間営んだ後、2012年に現在の地へ。フロアマネジャーの富美子さんとともに店を切り盛りしている。

愛知県美浜町「フレベール ラデュ」店内

扉を開けると焼き菓子の棚や生菓子のショーケースが。奥にテーブル席もある。テラス席は徐々に増やしていった。

愛知県美浜町「フレベール ラデュ」のケーキ

国産イチゴや美浜レモンなど季節の素材を使ったケーキが並ぶ。

 長靴形をした知多半島の足首あたり。その東海岸に面した小高い丘に、長瀬岳二さん(62歳)・富美子さん(56歳)が営むパティスリー&カフェ「フレベール ラデュ」がある。フレベールはフレッシュグリーンという意味の造語。この店名に込められた思いが、夫妻を現在の地に導いていく――。

 美浜町に移転する前は、愛知県豊明市(とよあけし)で「フレベール」というパティスリーを営んでいた夫妻。開業当時は緑豊かだったが、年々自然が減少。若いころから「緑豊かな場所で店を営みたい」という思いが強かった2人はその環境を憂い、20年間営んできた豊明市の店舗を手放すことを決意。新たな土地を探すこととなる。条件は、海と山がある場所。周囲に家がなく、自然環境が守れることも希望の1つだった。

「しかし、パティスリーをやりたいと伝えると、どの不動産業者もロードサイドや駅前を案内してくれる。また、自然豊かな場所は地目が農地や山林というケースが多く、店を建築するのが法的に難しいということもありました」

 県内外のあらゆる場所、無人島や牧場も見学したが、思い描く土地に巡り合わず。訪ねた土地は200件以上にものぼった。

「しつこく土地を探すものだから、私たちは地域の不動産業者の間ではちょっとした有名人に。そんなとき、たまたま入った不動産業者が不安げに紹介してくれたのが現在の場所。見てすぐに『こんな場所を探していたんだよ!』と喜びました」

 購入を決意した土地は、別荘の放棄地。竹やぶで海が見えない状態だったが、夫妻は「絶景になる」と信じていた。ただ、傾斜がある土地を整備できる業者がなかなか見つからず業者探しにも手間取ったが、最終的にゴルフ場などを整備している業者が仕事を受けてくれた。あまりの荒れ地ぶりに、クレーン車が壊れるなど苦労は続いたが、なんとか開業までこぎつけた。

移転後の閑古鳥状態を自家製パフェで巻き返し

 周囲からは「あんな場所で大丈夫?」と心配されることが多く、その予想通り、開業後しばらくは順風満帆ではなかった。

「移転後、初めて迎えたバレンタインで商品を購入してくれたお客さまはたったの4人。以前の店は駅に近かったからケーキだけでよかったのですが、こんな場所にわざわざケーキだけを買いに来る方はわずかでした」

 店の認知度を上げるために考えたのが、パフェ。1作目は濃厚なチョコレートとプラリネアイスクリームを使ったものだった。自家製アイスクリームの製造許可も取り、パティスリーならではの上質な素材を使うことを心がけたおかげで、その味がクチコミで広がり、訪れる客が徐々に増加。季節のフルーツを使ったり、冬は温かいソースを合わせたり、バリエーションを多彩にすることで、季節ごとにファンを増やしていった。

 移転して11年。植樹した果樹は実り、洋菓子に使えるまでに生長。長瀬さん夫妻は目を輝かせ、こう教えてくれた。

「これからさらにブルーベリーやオレンジも植える予定なんですよ。若いころから、海を見ながらこういった生活をしたいと思っていたのですが、夢はいつの間にかかなっていました」

愛知県美浜町「フレベール ラデュ」のパフェ

店が軌道に乗るきっかけとなったパフェ。スポンジやゼリー、アイスクリーム、パイ、飴細工などすべて手づくりだ。写真の「ティアラ」は1650円。季節限定のパフェも登場する。

愛知県美浜町「フレベール ラデュ」でスタッフと働く様子

厨房やホールを合わせて30人弱のスタッフを雇用。地元・知多半島出身者が多いが、名古屋から約1時間の距離なので、通勤しているスタッフもいる。

愛知県美浜町「フレベール ラデュ」にて長瀬さん夫妻と常連のお客さん

開業前から店を気にかけていた近隣住人は、オープン後は定期的に店に通う常連さんに。「扉の前に野菜や魚を置いていってくれるなど、お世話になっています」と長瀬さん夫妻。

フレベール ラデュ
住所:愛知県知多郡美浜町大字北方字立戸14 - 5
☎︎0569-82-3568
営業時間:10:00~17:00(LO16:30)
定休日:火・水曜(祝日の場合振替休日あり)
フレベールラデュ (fraisvert-radieux.com)

 

田舎でお店を開くためのアドバイス

愛知県美浜町「フレベール ラデュ」の長瀬さん夫妻

「地域の方との交流も大切にしています」

田舎だからこそ、しっかりと洗練されたものをつくることを心がけています。あと、田舎暮らしにつきものなのが災害。私もひと通り災害の洗礼を受け、道の整備など余分な費用が発生しました。そういった不測の事態に備えるために、保険には絶対入っておいたほうがいいですよ。

利用した開業支援&補助金▶ 当時は今のように自治体の補助金などはありませんでした。なので、店舗を取得する際に利用したのは金融公庫からの融資です。最初は小さな店から始めたので、まずはそれを完済。その後も、必要に応じて借りては完済しながら店を広げていくことができました

 

美浜町移住支援情報
新築・住宅取得費補助金など、住まいに関する支援が充実

 美浜町では、新たに住宅を取得する町民と町外からの移住者(40歳以下で15歳未満の子どもがいる人)に対して「新築・住宅取得費補助金」を用意。新築住宅の建設には最大15万円、新築もしくは中古住宅の購入には最大15万円の支援が受けられる。空き家情報バンクも開設し、登録物件の紹介を行っている。

問い合わせ先:美浜町都市整備課 ☎︎0569-82-1111(内線246)
https://www.town.aichi-mihama.lg.jp/docs/2018031200014/
https://www.town.aichi-mihama.lg.jp/docs/2013100801635/

愛知県美浜町の野間埼灯台

美浜町のシンボル、野間埼(のまさき)灯台。伊勢湾に沈む夕日が楽しめる最高のスポット。

愛知県美浜町の陸上競技場・交流広場

名鉄知多奥田駅前に整備している陸上競技場・交流広場は2024年度にオープンする予定。

愛知県美浜町の観光PRキャラクター「のまっキー」

「伊勢湾と三河湾、2つの海に面した緑豊かな場所です。ぜひ、おいでください」
美浜町観光PRマスコットキャラクター「のまっキー」

 

文/横澤寛子 写真/松原 豊

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