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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月3日(月)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

老いと幸せ/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(49)【千葉県八街市】

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 12月25日「猿も焚火が好きである」。今回の寒波は今日でいったん終息します。昨日のテレビはそう言っていた。だが、当地の冷え込みは今朝がいちばんひどかった。畑は全面霜で覆われ、仕事で使ったバケツや桶は氷で固まっている。起床時の室温0.6度。外が寒いのは寒いのだが、これには少し事情がある。庭に設置した太陽光発電のケーブルを室内に引き込む。普通なら壁に通し穴を開けるだろう。僕はそれをせず、ガラス戸の隙間から通す。よって、合計6カ所、外気が素通りするわけだ。そんなこんなで、最もキビシイのは起きてから朝食を終えるまでの1時間半。朝食時、椅子に電気座布団が乗せてある。だからお尻だけは暖かいが、なんせ室温は8時でも5度前後。窓からはまだ日も差し込んでいない。よって、焚火の現場に急ぐ。下の写真の現場で焚火をすることすでに連続1週間。あちこち散乱している伐採枝が燃えてなくなるのは嬉しいが、20メートル、30メートル先から何度も抱きかかえて来るのは容易じゃない。昨日の焚火はもう燃え尽きていたが、高く積もった灰はまだ暖かい。そこに、最も燃えやすいキクイモの枯れ枝をまず投入する。

 キクイモの枯れ枝はなんとも重宝なもの。燃え尽きるのは早いのだが、瞬間的な火力はすさまじく、上手にコントロールすれば太い木にもじき延焼する。僕は人心地つく。ようやく温まった体、そして頭。ここで、ふと、ふたつの事を思い浮かべる。ひとつはイスラエルの攻撃を受け続けているガザ。医薬品も医療機器を動かす燃料もない。マイナス10度近い寒冷の中、食糧も底をつく。一昨日の朝日新聞夕刊によると、ガザ地区の全人口220万人が、近いうちに危機的レベルの飢餓状態になるという報告書を国連が出したとあった。寒さと飢え・・・映画や小説の世界ではよく見る常套句かも知れないが、たった今、現実の世界。幼な子を含む多くの人間が空腹と寒さに苦しんでいる・・・戦争とはなんとむごいものであるか。

 もうひとつ、焚火にあたりながら思い出したのは猿である。愛知県犬山市のモンキーセンター。そこではかつて、災害によって倒れた木を処分のために燃やしたそうだ。その焚火の周りに猿たちが寄り集まって来た。予期せぬ偶然のことであったが、以後、施設では猿たちのために焚火を用意してやっているという。たしかに火はありがたいものだ。凍えた体を暖めてくれる。そればかりでなく、気持ちも暖まり、いっときの幸福感が、火のそばに腰を下ろす猿をも、僕をも、包み込んでくれる。それだけではないかも。老齢の身にはちょっと違った作用も及ぼす。面白い作用だと思う。それとは・・・昔のイヤな出来事を、立ち昇る煙に乗せて、混ぜ込んで、どこか遠くに運び去ってくれるのだ。さらに、焚火の炎は低い声で、こちらに向かって囁き始めるのだ・・・。過去はカコだガサ。もし「ン」の文字ひとつ足すと禍根になっちゃうガサ、そんなもの、いつまでも引きずったってしょうがないガサ。大事なのは今日さ、明日さ。美味しいごはんをいっぱい食べて、食べたら出して、あとはしっかり働いて、夜はぐっすり眠る・・・それが人間の幸福というものだガサ・・・。ガサを多用した。何段にも重ね、井桁に組み合わせた枯れ木。それが、燃え尽きて、落ちる瞬間の音、ガサなのだ。僕はガサの音を聴くたび、円を描くようにして移動し、もとは1メートルあった木がガサの音とともに2つに切れて・・・そのままでは燃焼効率が悪いゆえ、焚火の中心部分に押し込んでやる。そして時にはうっかり、火のついた部分を握って熱い思いをすることもある。だガサ、人の一生、心にも、指先にも、熱いものが満ちている・・・それって大事なことなのかもしれない。

この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

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