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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

老いと幸せ/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(49)【千葉県八街市】

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 12月17日「あなたには、衣料費はかからないが、医療費がかかっています」。昨夜まで足かけ3日、強烈な、憎たらしいほどの風が吹いた。はがれたビニール、外れたパイプ、その事後処理に大いに時間を取られた。被害状況に目をやり、ひでえなあ・・・時に舌打ちすることもあることはあるのだが、ほとんどは良い方に気持ちが向かう。半分めくれ上がったビニールトンネルを見て、ああちょうどよかったじゃないか、早く草取りと土寄せをやりたいと思っていたが持ち越しだったんだ。よし、この機会にやっておこう。あるいはまた、ああ、空きスペースがけっこうあるな、込み合っているチンゲンサイをここに移してやろう・・・この気持ちのゆるやかさは、たぶん、老人になったゆえのことだと思う。災い転じて福となす。この精神が前面に出るのがどうやら老齢の姿なのだ。昨日の強烈な風は南からの風だった。気温は24度まで上がった。もう冬眠したであろうと思っていた蛙が気分良さそうに高らかに鳴いた。ニワトリたちはいっせいに、眼を細めて砂浴びをしていた。いいねえ・・・それにつられて僕もふんわり幸せ気分になった。だが今日は・・・昨日とは様変わり、空気は一気に冷たい。昨日と今日の落差はあまりに大きい。

 朝日新聞の土曜版「いわせてもらお」、それを僕はふだんから愛読する。秀作に出会うと声を上げて笑う(トシ取ると笑うことが特に大事)。

先日、妻と衣料品店へ出かけた時のこと。私が「最近服を買ってないなあ。衣料費かからなくていいなあ」と言うと、妻は「あなたには医療費がかかってます・・・」(63歳男性)

 僕も衣料費がかからない。最後にパンツか何かを店で買ったのは、おそらく20年くらい前ではないか。うちにはリサイクルショップを開業できるくらいの衣料品があるのだ。お隣さんから、弟から、友人から、ドデカイ箱に入った品が年に3回くらい届く。届くのはセーターやズボン、ベストの類が多く、さすがにパンツ、モモヒキなどの下着はない。しかし、ガールフレンド「フネ」が誕生祝いだのお中元、お歳暮だのとして、パンツなんかをまとめて10枚も買って持参する(僕はいつも感激しつつ言う。まともなパンツがなくて困っていたんだよ、こりゃ渡りにフネだ・・・)。ということで、衣料品店に足を向けること皆無、衣料費はゼロである。と同時に、もうひとつの医療費も僕はゼロである。健康保険の財政はどこも厳しいと聞くが、僕はささやかながらもそれに貢献している。ところで、前にも書いたが、僕はモノを捨てられない。衣類はトコトン使う。下の、背中がぱっくりのセーターもそうである。その醜態をパパラッチしたのは「フネ」である。

 12月18日「植物を育てることは人間に生き方を教えてくれる」。かなりの冷え込みである。朝一番の仕事として道路沿いにあるビニールハウスで作業していたら、お隣の奥さんが、ハイ、おやつとリンゴを5個くれた。奥さんはどこだったかリンゴの産地の出身なのだ。昨日は赤飯をもらったばかりで、恐縮、ご馳走様です。それにしても急に寒くなったねえ・・・僕のその言葉に返ってきたのが「わたし、寒くなると肩の痛みがひどくなって、夜もよく眠れないくらいなのヨ・・・」。昨日は医者に行って注射を打ってもらったらしい。中村さんは肩なんか痛くならない? うん、腰はだいぶ痛いんだけれど、肩はなんでもないね。風邪も引かないんでしょう、中村さんは。歳取ると、やっぱり元気なのがいちばんだよねえ・・・。そんな会話を交わした。テレビを見ながらいつも、風邪薬のCMにハッとする。風邪の症状は「人生の5年分」に相当します・・・というキャッチフレーズにそんなに長いのかと僕は驚くのだ。

 さて、少し気分転換を兼ねて部屋の中の苗ものの世話をしようか。底部に電熱マットを敷き、金魚の水槽を載せ、その中にキャベツやレタスの種をまく。陽が傾いて外の光が当たらなくなったらLEDライトをつけ、夜から朝までは毛布でしっかりくるんでやる。畑のビニールトンネルでやる方がずっと手間なくすむけれど、朝食時、珈琲カップを手にしてその成長具合を眺めるのって、けっこう楽しいものなのだ。日当たりがよく、大きな窓のダイニング。その窓辺に並べた可愛い鉢植えのサボテンなんかを世話する人をパソコンやテレビで見かける。そんな洒落たことは僕には出来ない。サボテンの代わりがキャベツやレタスというわけだ。

 一昨日の朝日新聞「読書」の欄で、スー・スチュアート・スミス著『庭仕事の真髄 老い・病・トラウマ・孤独を癒す庭』(築地書館)が紹介されていた。評文を書いたのは庭園デザイナー烏賀陽百合(うがや ゆり)氏。冒頭、こう記す。

庭の手入れは大変だ。雑草を取り、毎日水をまき、力仕事も多い。しかし日光を浴び、土に触れ、植物を育てることで得られる達成感や穏やかな気持ちは他では得られない体験だ。

 僕はこの本を、たぶん1年くらい前かと思うが、読んだ。厳密に言うと僕の場合は庭ではなく畑だが、水をやる、力仕事をする、日光を浴びる、そして達成感と心の平穏を得る・・・みな同じだ。達成感それ自体は、どなたでも、さまざまなシーンにおいて得られていようが、植物(野菜)に関する場合、相手は生き物、AIを操作するようにはいかない。植物も、それを育てるこちら側の人間も、天候という全く意のままとならないファクターに大きく影響を受けている。それをどうにかクリヤーするところが他とは違う達成感である。

「植物を育てることは人間に生き方を教えてくれる」と著者は言う。植物を育てることは自分の思い通りにはいかない。桜や紅葉の時期が予測できないのと同じだ。自分の都合通りに進まず、相手のタイミングに合わせることが必要になる。それは他者を思う気持ちに繋がる。そして自分自身を見つめ直す時間になる。

 植物が教えてくれることは数々ある。生きる力をもらったり、ホロッとさせられたり、もっと頑張らなくちゃ、オレも・・・そう尻を叩かれたりもする。そして、植物と接する暮らしの中で、僕がいま最も力を込めて言葉にしたいのは、「平和を願う気持ち」が強くなるということだろう。個人対個人もそう、国家対国家もそう。争いでもって憎悪をふくらませ、血を流すなどということがいかにつまらぬことかを植物は教えてくれるのだ。美しい花々だけじゃない、イモだってカホチャだって、マメだって、寡黙でいながら、「平和」が、いかに平凡ではあれど、尊いものであるかをちゃんと教えてくれるのだ。さて、この上の写真、先ほど書いた部屋の中での野菜の育苗。それにLEDライトが灯ったところである。具体的には午後3時半から5時。窓辺に太陽光が届かなくなった時刻に点灯する。

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