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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月3日(月)
890円(税込)

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移住にオススメなまち/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(46)【千葉県八街市】

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 今回のテーマは移住である。いつ、どのような土地に移り住むか。人生の方向転換をしたいと考えている人にとって重要なポイントである。ただし、これからそのことを書こうとしている僕の、地理的な知識、直接に目や肌で触れた経験は限られている。ざっと思いつくままに挙げてみると、高校時代の自転車旅行での東海道、山陽道の沿線。親しい友人たちとキャンプした東京・奥多摩。地引き網をしに行った茨城の大洗。大学の合宿で訪れた伊豆の白浜、同じく伊豆の大島、新潟の鯨波(くじらなみ)、那須塩原。松尾芭蕉の『奥の細道』をたどるというコンセプトでなされた会社の社員旅行で訪れた東北、あるいは金沢。家族旅行で行った北海道、九州。そしてマラソン大会で訪れた河口湖、猪苗代湖、群馬の碓氷峠、京都市郊外・・・。これに、ふるさと祝島と対馬を足してもいいかもしれないが、ともかく現実の経験は限られている。ゆえに、僕の記述は外部からの「知識」をもとにするケースが多くなる。

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 具体的な事柄に入る前に、案外大事なことと僕が思う点を始めに示しておく。それは迷い過ぎないこと、あまり長く逡巡しないことである。もちろん、心を惹かれた場所にはどんどん行ってみよう。数多く現地を見ることで比較材料が蓄積される。ただし、僕の考えでは完全無欠な移住候補地というものはない。風景が美しい山の上では土砂崩れ、倒木の危険がある。買い物や行政サービスにも不便さが伴うかもしれない。一方で、今の僕がそうであるように、自然災害の危険はないが、感動するような風景がまるでない。遠くに美しい山が見えるわけでも、きれいな川のせせらぎに接するわけでもない。それでも現在の土地を買うことにしたのは百姓として生きるのが主軸だったからである。それ以前、僕はいくつも同じ千葉県内を探索した。当時は毎日新聞がそうした物件を多数掲載していたのだが、これはと思うものを見たら地元の不動産業者に連絡して赴いた。勝浦、大原、御宿。海育ちの僕ゆえに海の近くでの農業を漠然と胸に描いていた。そして・・・風景としてはどれも申し分なかった。当時は別荘ブームで、海を見下ろす高台にある建物はどれも洒落ていた。しかし気持ちは動かなかった。土地が狭いのだ。広いものでもせいぜい150坪。僕はすでに最初の田舎暮らしで200坪の土地を所有して野菜を作り、山羊や鶏を飼っていたから150坪はとても小さな土地と思えた。移住して自分は何をしたいのか。生産活動をして収入を得たいなら広い土地がいる。リモートワークなどですでに収入の道が確保されているなら、さして広くない土地でも周囲の風景が心を慰めてくれる、そのようなことにポイントを定めて候補地を絞ればよい。繰り返す。迷いの歳月が長すぎるのはよくない。どこかでバシッと決断する。迷いすぎると気持ちの温度がどんどん下がり、移住という問題そのものが影を潜めてうやむやになってしまう、絶好のチャンスを逸してしまう可能性だってある。

 9月14日。「限りなく透明のブルーにあこがれるけれど」。もう9月も半分が過ぎようとしているのにこの空である。強烈である、直射日光が背中にのしかかる。ヤワな体だと30分ともたないのではあるまいか。でも、鍬とスコップを交互に使い、午前と午後、通算5時間、僕は働く、この青い空と白い雲の下で。やらねばならぬのだ。すでに三度まいた人参は高温と豪雨で大きなダメージを受けた。年内の収穫を望むためにはもう播種(はしゅ)の限界にきている。

 移住には、大雑把に分けて2種類ある。移住した土地で生産活動をして収入を得る。簡単に言えば僕のような百姓になる。もうひとつは勤め人の資格を保持したまま居住地だけを変える。リモートワークが定着した昨今、この事例は多く、今後も増えて行くだろう。この2パターンのどちらであるかによって、移住候補地の選択基準は変わってくる。

 5時半に人参をまき終わり、いつものように軽トラのフロントに押し当てた夕刊をストレッチしながら読む。一面の大きな見出しは「仁淀ブルーにぎわう流域」。高知県中部を流れる仁淀川は「仁淀ブルー」という言葉で知られるようになり、この夏は観光客でにぎわったという。ただし観光客は冬になると激減する。仁淀川流域の6市町村は過疎化が進む。朝日夕刊のその記事にはかつて「釣りバカ日誌」の担当編集者であり、10年前に高知市に移住した黒笹慈幾氏(72)が登場する。「国の人口が減る時代に定住人口を奪い合っても仕方がない」そう考える黒笹さんは「仁淀ブルー通信」というのを発信し、観光リピーターを増やす活動に力を入れているらしい。

 海育ちの僕ではあるが、川にもいくらか馴染みがあった。妻の実家は木曽川沿いにあり、行くたび木曽川沿いの道をランニングした。最初の田舎暮らしは利根川のすぐそばで、出勤前、山羊と犬を従え川の土手を毎朝走った。ただし、このふたつの川に限らず、上流の水は美しいのに対し、下流平野部の水はたいていどこも濁っている。心を動かされるものではない。朝日夕刊の記事には両側から大きな岩がせり出し、青く透き通った水底で魚が泳ぐ水中から、空を見上げる恰好の写真が掲げられているが、ああ、これなら、こんな美しい川のそばでなら暮らしてみたい・・・そう僕は思った。ただ、そこで生産活動をする、百姓として暮らすというのはまず不可能であろうが。

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この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

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