掲載:2022年6月号
百済(くだら)王伝説が語り継がれ、奈良の正倉院の御物(ぎょぶつ)と同じ銅鏡が残るなど、いにしえのロマンが薫る宮崎県美郷町(みさとちょう)の南郷区神門(なんごうくみかど)。ここで40年近く親しまれてきた名物そば店が「田舎屋みかど」だ。経営者夫妻の高齢化に伴い、古民家を活用した店舗の買い手を探している。
百済の里の玄関口で営む 郷土色豊かなそば店
美郷町の三大祭りの1つに、南郷区(なんごうく)の「師走祭り」がある。8世紀中期に朝鮮半島の百済(くだら)から王族一行が日本へ亡命し、同区の神門(みかど)などに隠れ住んだ言い伝えに由来して毎年1月(旧暦12月)に開催されてきた。その百済王伝説を掘り起こすプロジェクトが1980年代半ばに立ち上げられ、担当を任されたのが、当時の南郷村(なんごうそん)役場の企画課職員だった原田須美雄(はらだすみお)さん。調査するなかで、百済王の遺品として神門神社に伝わる銅鏡の1面が奈良正倉院の御物(ぎょぶつ)と同一であると判明。のちの「百済の館」開館や「西の正倉院」建築につなげるなど、百済の里づくりに携わってきた。これらの大事業とともに、須美雄さんが手がけたもう1つの村おこしが、郷土の味を伝えることだ。
「神門では毎年12月、その年に収穫して挽いたそば粉を持ち寄り、みんなでそばを打って神様に供え、酒を酌み交わす『そば祭り』が受け継がれてきました。この地域ならではのそばが味わえる店を、誰か開いてくれないかと探していたんです」
なかなか名乗りを上げる有志が現れず、それならと指名したのが妻の稔子(としこ)さんだった。場所は自家畑があった土地。解体が決まっていた築100年ほどの古民家を買い取り、移築して店を構えることにした。そして84年10月、そば処「田舎屋みかど」が開業。当初は須美雄さんの母がそばを打ったが、現在は仕事を引退した須美雄さんがそば打ちのみを担当し、稔子さんが店主として切り盛りする。
地域で愛されてきた店舗の継承者を求む
コンブとイリコで出汁を取る一般的なそばもあるが、そば祭りでつくり続けてきた郷土の味が「田舎そば」だ。地鶏とゴボウを煮込み、味付けはしょう油のみ。一晩寝かせてまろやかに仕上げている。熱々のスープを口に含むと、ゴボウの香りと地鶏のうま味がじんわり広がり、太めのそばともよくなじむ。
「お客さんは地元の方も来られますが、すぐ近くに『西の正倉院』や泉質のよい南郷温泉などがありますので、一番多いのはやっぱり地域外の方ですね」
と、稔子さん。なかには、開店前の準備中や夕方の閉店後に「開けてくれん?」と訪れる常連客もいるが、店にいるときには快く迎えるという。休みは、稔子さんの用事がある毎月3日間ほどと、年始の約1週間。それ以外はコロナ禍で来店客が減った今も変わらず暖簾(のれん)を掲げ、温かなそばともてなしで来店客の身も心も満たす。
とはいえ、寄る年波には勝てず、稔子さんの腰も数年前から悲鳴をあげている。仕方なく店舗の売却を決め、美郷町の空き家バンクに登録した。今後の予定を稔子さんはこう話す。
「買い手が見つかるまでは続けます。皆さんがここのおそばを楽しみにしていて『また来ます』とお帰りになりますから」
売却希望価格は評価額の半分近い350万円。補修はほぼ不要で、厨房機器や家具なども付いているので、その気になればすぐに開業できる。長年親しまれてきた店を受け継ぐ、志ある移住者の登場に期待したい。
【物件データ】
宮崎県美郷町
350万円
土地:43坪・142㎡
延床:20坪・68㎡
●店舗●宅地●平坦地●都市計画区域外●築38年(移築後)●水洗(和式)●東九州自動車道日向ICより車で約50分●南郷区神門にある木造平屋(既存の古民家を移築)。トイレは集落排水。駐車場5台分。町役場南郷支所へ車で約3分、南郷診療所へ車で約5分、Aコープ神門店へ車で約5分。土砂災害特別警戒区域。
●問い合わせ先:政策推進室 ☎0982-62-6203
こんな人に来てほしい!
地域の味の継承者が理想
建物を活用してもらえるなら、どんな店にするかは問わないという原田さん夫妻だが、長年地域で愛されてきたそば店を継承してほしいというのがホンネ。「ここの田舎そばは、ほかのどこにもないものですから。そば店をされるなら、つくり方はお伝えしますし、道具も今あるものを使えますよ」と、稔子さん。
空き家バンク物件情報
賃貸でも売買でもOKの平屋
美郷町の空き家バンク物件は3月末時点で8件。そのうち「田舎屋みかど」から車で約10分の南郷区内にあるのが、賃貸なら月3万円、売買なら200万円の平屋だ。築94年になる古民家で、土地162坪、延床41坪。駐車場5台分以上、田280坪付き。トイレは水洗。かまど、茶窯あり。
●問い合わせ先:政策推進室 ☎0982-62-6203
https://www.town.miyazaki-misato.lg.jp
文・写真/笹木博幸
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