3月1日「そうか、お試し移住というのもあるんだね」。
朝の気温はまだまだ低いが、今日は久しぶりの快晴となった。4日ぶりの荷造り。サトイモ、サツマイモ、ヤーコン、長ネギ、ダイズ、エリンギ、ベカ菜、タアサイ、キャベツ、大根、人参、そして卵15個。例の、朝夕の苦労をして育てているエンドウ栽培。その初物も荷物に入れることにした。なんだ少ない・・・これっぽっちなの。そう思う人もいようが、今日のお客さんはわかってくださる。百姓になって数年、まだまだ未熟だった僕の野菜を買ってくださるようになった漫画家のFさん。指折ればなんともう34年のお付き合いである。野菜の出来は、良い時も悪い時もある。Fさんはそのことをわかってくださる。不出来な時は申し訳ありませんと詫び、よく出来た時はそれを補いタップリ送る。一発勝負でないからそれが出来る。一発勝負といえば・・・半年くらい前に不本意なことがあった。葉物に虫がついていた。袋の底に水が溜まっていた。キウイに2つ、傷みがあった。スマホで撮った写真を添付し、ふるさと納税の事務局経由でクレームが来た。その方のクレームは二度目だった。最初の時は申し訳ありませんとお詫びの手紙を添えて代品を送った。ふるさと納税で僕が得るのは荷物1個あたり3000円。送料負担で代品を送ったら完全な赤字である。一度目は頭を下げた。しかし二度目となると・・・もう我慢は出来ない。以後の発送はこちらからお断りした。葉物に着いた虫は、袋に詰める段階でチェックする。しかしたまには1匹、2匹が付いたままということもあるのかもしれない。袋の底にあった水というのは、遠距離の場合、鮮度を保つため根っこを切らず、あえてその根っこに水を僕は含ませる。キウイは大きな箱で長く保存してある。これまた出荷時チェックはするが、表面からでは見えない傷みもあるかもしれない。そのことを考え、僕は少なくとも15個、多ければ20個を入れるのだ・・・。お客様は神様だ・・・この百姓、基本的には神様に頭を下げる。だが、たまには下げないこともある。
5時半に仕事を終え、いつも通りに腹筋をやり、その腹筋台の上で鼻から吸って口から吐きだす深呼吸を20回やってアガリとした。深呼吸しながら思い出したのは『無敵の100歳』という本(幻冬舎)の大きな広告のことだった。「長生きには、長い息!」という見出しの後にはこう続く・・・
健康寿命を延ばす「呼吸」と「筋肉」が手に入るのはロングブレスだけ。強く長い呼吸を繰り返すロングブレスは、体温を上げ、血流を良くし、劣化した毛細血管を再生させる。日常生活の動作がスムーズになるだけでなく、がん、脳の病気、心筋梗塞など、あらゆる病のリスク予防となる究極の健康法!
僕が毎日腹筋台の上で深呼吸するのはこの本が言うような効果を特に意識したものではない。1日の終わり、すべてをやり終えたという満足、安堵感を、視線の上にある月や星を眺めて確認する、その所作として自然発生的に身についたことなのだ。ただ、ロングブレスそのものは、たぶん僕は畑の上でやっているのかもしれない。毎日、のべ数時間に及ぶ鍬やスコップでの仕事は幻冬舎の広告が言う「強く長い呼吸」にきっとなっていることだろう。その広告でびっくりしたのは、『無敵の100歳』のモデル主人公は美木良介という方で、それとは別に、幻冬舎の社長としてよく知られる見城徹氏の上半身裸の写真も掲げられていたことだ。73歳らしい。ロングブレスを始めて6年半。確かに、腕も胸筋も立派であった。
畑仕事と腹筋を終えた僕はいつも部屋に戻ったらテレビとパソコンをつける。NHKのテレビは7時のニュースが始まる前、このところずっと「移住」をテーマとしたシリーズをやっている。今日の舞台は千葉県松戸。24歳から18年間、通勤に常磐線を使っていた僕には松戸は親しみを感じる街だ。そして、都内に近く、不動産の価格が安いとのことで、東京・横浜あたりに住んでいる人たちに松戸は注目されているのだという。僕が、へえそういうこともあるのかと耳を傾けたのは「お試し移住」だった。週末だけ松戸に滞在する。自分がやりたいと思っていることが出来そうかどうかを滞在しながら考える。レストランを開業する人、松戸の特産である梨を使ったビールを作る人、オーダーメイドの靴を作る人・・・夫婦の場合、夫は都内での仕事に通い続けるのに松戸は何ら支障がない・・・。なるほど、東京に近くて不動産物件は安い、いいことだらけだ。そのことに加え、自分の移住プランの実行確度をお試し期間中にきちんと判断することが出来る。イチかバチの一発勝負しか選択肢のなかった我が時代とは大きく変わったんだなあ、今は移住希望者にとても優しい心遣いをしてくれる時代なんだなあ・・・。テレビを見ながらそんなことを思った。
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