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田舎暮らしの本 11月号

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田舎暮らしの本 11月号

10月3日(木)
890円(税込)

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日々是好日/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(51)【千葉県八街市】

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 今回のテーマは「日々是好日(にちにちこれこうじつ)」である。日々是好日と書きながら僕はいま思う。オレの百姓生活は毎日が好日なのか、あるいは悪日なのか・・・。今回の筆を起こしたのは2月16日。まさしく悪日である。昨日は時ならぬ高温の日であった。テレビはこぞって、桜が咲くころの気温です、皆さん上着を脱いでシャツ1枚、それでも汗をかいている人がいます、冷たい物がよく売れています・・・そうはしゃいでいた。その時僕は畑を走り回り悪戦苦闘していた。いわゆる春の嵐。瞬間風速20メートル。ビニールハウスもビニールトンネルも悲鳴を上げている。一か所でも破れ目が出来るとビニールは一気に破壊に及ぶ。ロープを渡して押さえつけ、その裾には高く土を盛ってやった。その風は深夜まで吹き続けた。そして何時だったか、寝床で風まじりの雨音を聴いた。そして今日16日の朝、風は、文字通り、手の平を返したごとく南から北に変わっていた。この北風も穏やかではない。オレに恨みでもあるのかい・・・そう思うほどのすさまじさだった。

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 日々是好日、その原典は、毎日が良き日、それを喜び、楽しく生きよう・・・そんな意味とはやや違うらしい。むしろ戒め。今日という日は二度とない。今日、何があろうとも全力を尽くして暮らし、明日という日につなげよう・・・そんな教えでもあるらしい。好日があり、悪日もあるのが人生だ。いちいち大袈裟に喜んだり悲しんだりしていては身が持たない。常にその時その日の条件に身も心もアダプトさせ、力の出し惜しみをせず穏やかに暮らす・・・前から書いているように、これが我が人生哲学だ。あれこれ難題が生じたこれまでの百姓生活40年。そこで得たのは、人間、身も心もフラットに生きることの大切さだった。ともかく精神、肉体とも凹凸を少なくする。昨日の24時間をそのままなぞるように・・・ちっとも「代り映え」のしない暮らしではあっても、今日24時間をきちんと生きる・・・僕が想う日々是好日とはこれである。昨日と全く変わらない今日という日・・・人によっては、それってつまらないなあと思うだろう。でも、僕はその無変化に価値を置く。昨日やれたことが今日も全く同じにやれる。それってとても大事、価値のあることだ。以下、読者とともに楽しく健やかに暮らす手がかりを探してみたい。

 2月19日「免疫のスゴ技と強化法」。

 気温は高い。テレビはまるで初夏ですね、どのチャンネルもそう騒いでいる。しかし太陽はほんの少し姿を見せたくらいでドンヨリと薄暗い。タマネギとキャベツの草取りに励む。1月の種まきから40日。キャベツは勢いを増してきた。それから風と小雨の中で荷造りに励む。毎日荷物を作るので新聞紙が足りない。1つの荷物で20枚ほどを使うのだ。それでもって、今日配達された新聞を、荷造り台に広げ、ページをめくって走り読みし、それをすぐさま包み紙とする。

 手にした読売新聞の一面、書籍広告に僕の目がすぐに行った。『ここまでわかった!  がんを治し、認知症を防ぐ「免疫」のスゴ技と強化法』(宝島社)。一面下段、6つ並んでいる書籍広告。そこで宝島社の本だけにパッと目が行ったのは昔の仕事柄との関係だろう。思えば、中学・高校の理科もろくに出来なかった男が最先端の医学雑誌の編集に関わる・・・とは、なんと皮肉なこと。先輩、上司、ときにはドクターにも叱られつつの20年だった。担当した月刊誌は「代謝」「癌」そして「免疫」。さらに臨時号扱いとして「和漢薬」というのもあった。「免疫」の顧問編集者は千葉大学の、のちに東大の教授となる多田富雄先生。免疫学の世界的権威であると同時に、能楽や随筆など多彩な才能の方だった。初めてお顔を拝見したのは僕が編集部に配属されてすぐの頃。箱根の富士屋ホテルで行われた編集会議。上司から、間もなく多田先生が到着されるから表で待機し、会場までご案内しなさい・・・そう指示されてホテル玄関に立っていた。タクシーを降りたのは30歳を少し出たくらいの青年。驚いたのはジーンズ姿だったことだ。会場に居並ぶのは背広にネクタイ姿の東大・阪大の教授たち。そこに加わったジーンズ姿の青年・・・だが失礼でも何でもない。それが許されるだけの研究成果を多田先生はすでに得られていたのだろう。かつまた、映画「白い巨塔」でも描かれたような、教授は神様、古い医学部に見られた権威への反骨心、そうしたものが多田先生にはあったのかもしれない。

 免疫とは、ヒトが生きる過程で生じる災厄、それに対抗するための細胞レベルでのメカニズムとパワーである。B-cellやT-cell(ともに免疫細胞の一種)、Anti-body(抗体)、抗原-抗体反応、マクロファージ(貪食細胞)・・・外敵である抗原が人間の体内に入ったと感知するや、まず偵察・確認役の細胞が現場に赴く。次の出番は敵と対決する細胞(Killer T-cell)で、やっつけた敵の死骸を食って処分するのがマクロファージ、逆に免疫効果を低減させるサプレッサーT-cellというのもあった・・・。しかし時には必要以上の過剰反応で、自らの正常細胞に傷をつけてしまう場合もある・・・自己免疫疾患と呼ばれる関節リウマチ、膠原病、糖尿病などがそうである・・・。僕のこの記述は何十年もの昔の記憶をたどりながらのものであって、もしかしたら書いていることに間違いがあるかもしれない。それでも、多田先生が言葉にされた「人間の免疫細胞の働きはクラシック音楽におけるオーケストラみたいなもの。それぞれの楽器が独自の音色を響かせ、全体で美しく壮大な音楽を奏でる、これが免役機構というものなのです・・・」。これを拝聴したあの時以来、ヒトの免疫機構とは、まことにもって優れたメカニズムだなあ・・・何十年も前の仕事を思い出しつつ、僕はいま再び感動しているのである。

 話を元に戻そう。宝島社の本には「老化も脳梗塞も免疫制御が解決する」との見出しで、次のような文がある。

老化や脳の健康とも関係する「免疫細胞の仕組み」、ノーベル賞受賞が続く「免疫研究の最前線」を紹介するほか、「がんと戦う免疫が大豆製品・きのこ・野菜で若返る」「カルシウムでB細胞を元気に」など免疫の強化法を、わかりやすく解説。

 免疫力を高める・・・すなわち広い意味での体力を維持・向上させる条件は何か。我が理論では、食事、運動、そして精神のおおらかさ、この3つである。上に書いたように、僕は勉強の出来ない子どもだった。その一方で、自分で言うのもなんだが、本能というか、カンというか、そういうものには優れた体質に生まれついた。「人間の体はまさしく自分が食べたもので出来ている・・・」そういう言葉があるけれど、僕の本能はいい加減な食事を許さない。どれほど忙しくともカップラーメンですませるということをこれまでしたことがない。野菜と肉と魚、乳製品を必ず食べる。宝島社の本に大豆とキノコという例が挙げられているが、まさしく昨日も今日も、僕は大豆とキノコを食べた。百姓であるという理由からではなく、さまざまな野菜が人体の潤滑油になるということを、僕は自分の「カン」で気づいていた。ゆえに、イモ類も根菜類も1日1回必ず口に入れる。お客さん用の荷物を完成させるのは4時半頃。畑仕事はまだ残っているが、その前に・・・商品にならず、ハネておいた大根、人参、サトイモ、キャベツ、生姜などをきれいに洗い、太陽光発電につないだ鍋に投げ込んでおく。不精な人、もしくは無頓着な人はたぶん面倒くさがってやらないかもしれない。しかし僕は日々やる。そうして畑に戻り、最後の仕事を終えたらストレッチしながら夕刊を読み、場所を腹筋台に変えて100回の上下動。仕上げに、仰向けのまま、両腕を広げ、天空に輝く月や星を眺めつつ深呼吸を20回。よっし、本日これにて閉店。47度の風呂に飛び込む。いつものようにグラス一杯のワインを飲む・・・これが我が日々是好日である。忙しいからカップラーメンで、疲れたから夕食は出来合いの品で・・・僕は忙しい、疲れた、それを「日々是口実」にはしない男なのである。

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