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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

日々是好日/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(51)【千葉県八街市】

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 2月24日「株高で興奮する世間、カブの豊作でささやかに興奮する我」

 強烈な冷え込みの朝だ。畑は霜で覆われ、仕事で使ったバケツには氷が張っている、この下の写真は昨日出荷したフキノトウを洗った器。汚れた外葉を取り除いたものが氷で固まり、ちょっとした絵画の雰囲気を醸し出している。寒い朝だが、でも晴れた。嬉しい。太陽に出会えるのは何日ぶりだろうか。昨日が今シーズンのワースト天気であったゆえ、今日の晴天は特別に嬉しい。昨日の日中の気温は3度。トイレで目が覚めた午前4時半には雪がちらついていた。ふだんから野菜の水洗いはキビシイが、昨日は雨水の貯水タンクであるドラム缶を使った。地下にたまっている井戸水。地上にあって外気に触れているドラム缶の水。両者、水温がこれほどまでに違うのか・・・気温3度の中で、あえてドラム缶の水を使ったのは電気代との関係だった。ずっと光なし。太陽光発電はほぼ休止状態で、バッテリーのキープ電力は激減、ここ数日は東電の電気のお世話になった。井戸水の汲み上げポンプの消費電力は750ワット超。いくらか節約になるかも・・・そう考えたのだ。

 嬉しい晴天だが、今夕から下り坂。日曜、月曜とも雨、もしかしたら雪との予報。今日のこの好天を目いっぱい活用せねば。まずはカリフラワーの苗をハウスに植える。ここは人参のハウスだが、毎日収穫、人参の残りは少なくなった。その空き地を利用するのだ。続いてカブの種をまく。午後はいつも通りの荷造り。大阪行き。大根、人参、サツマイモ、サトイモ、大豆モヤシ、シイタケ、長ネギ、キャベツ、ヤーコン、タアサイ、卵・・・ああ、そうだ、彩りも兼ねて赤カブも入れてあげよう。ほどよい大きさを選んで抜き取りながら、僕はカブならぬ株のことを思い出した。一昨日、バブル崩壊後、ついに最高値を更新したとテレビが伝えていた。当日の夕刊も、翌日の朝刊も最大級の見出しで「東証 市場最高値」と伝えていた。さらにテレビの方は過去の映像も交えていた。そう、1万円札が乱れ飛んだあの時代、なんとかいうディスコクラブで狂喜乱舞する若い女性たちの姿(あの若さがはちきれる彼女たちも今は還暦なんだね・・・)。1989年のことだ・・・これは我が人生とも関係する大事な年。現在の家と畑を買ったのがまさしく1989年、僕が37歳の時だった。

 そのバブルがあえなく崩壊。以後の歳月を「失われた30年」と言うらしい。一昨日の「史上最高値」は街の投資家を興奮させたが、テレビには、株価を知らせるボードの前で涙ぐむ、たぶん50代半ばほどの男性が映し出されていた。彼の20代から今日に及ぶまでの30年は苦難に満ちる歳月であったらしい。仕事はなかなか見つからず、就職してからも給料は十分にもらえない。彼の涙は、これで日本経済は良くなる、きっと働く者の暮らしも良くなる・・・その期待と喜びの涙であったらしい。僕はカブのことは分かるが、株のことはとんと無知。株価が上がると景気が良くなるのか、株に投資していない人にも良い影響がもたらされるのか・・・赤カブを抜き取りながら、オレの人生、くす玉が割られて大盛り上がりの証券取引所に比べたら、ちいせえなあ、ちゃっこいなあ・・・とも思う。世の中は変化している。少額だけれども株を買うという若者は増えているらしい。昨夜のテレビにはなんと高校生までが登場した。パソコンの前には分厚い、たぶん企業名や資本額などが記された本が開かれていて、16歳の彼はこれからどんどん勉強し、投資家として成長するのだと熱っぽく語っていた。スマホが世の中を変えたと言われる。さらに投資に興味を示す若者の増加は世の中をもっと変えるかもしれない。ちょっと笑えることがある。僕のところにも勧誘メールが来るのだ。「中村顕治様を新NISA講座にご招待致します・・・」。お招きありがとう、でもオレ、投資して儲けたい気持ちなんて全くナイサ、そもそもそんな能力がまるでナイサ、畑で十分な暮らしNANOSA。百姓の僕はここで思う。投資セミナーが盛況という昨今の世の中の変化は、地面から離れていく人間、それがますます増えて行くことを意味するなあと・・・。どなたのエッセイであったか、「経済的な豊かさは、地面からの距離に比例する、生活の場所が地面から高ければ高いほど日々の暮らしは豊か」との記述があった。毎日ピタリ地面に張り付いている僕はここでトッピなことを考えたりもする。株価が上がる、すると食糧生産も増加する・・・そういうことはあるのか、ないのか。経済アナリストの所見を伺ってみたい。

 僕も投資する。ただし株ではなく,カブを含めた野菜の生産ために。今年になって投資したものは、ビニールハウスのビニール(5万円)。部屋の中で苗を作るための電気カーペット(2万円)。老朽化で蓄電効率の落ちたバッテリーを諦め、代わりに買ったポータブルの蓄電器(11万円)。その他、単価は安いがかなりの点数となる作業用の品物に3万円くらい・・・。これらはいずれも、低温期の今、多数の苗を育て、何もせずにいると品薄になること必定の3月、4月に商品を、さらに自分の食料を確保するための投資である。そして、株価高騰に欣喜雀躍する投資家に負けず劣らず、栽培が思惑通りの成果を得たなら、僕もひそかにビニールハウスの中で小躍りするのである。くす玉や、カンカンカンと打ち鳴らす鐘こそ準備はしていないけれど・・・。

 株価最高値の報道の数日前だったか、日本のGDPがドイツに抜かれ、世界4位に転落したとのニュースがあった。要因は円安とか、個人消費の低迷とかであるらしいが、人口が日本の3分の2であるドイツに抜かれたということにショックを感じる人もいたという。しかし僕は、それよりも、1人当たりの生産性の違いというのに意識を向けた。1人の、時間当たりがドイツ75ドルであるのに対し、日本は55ドルなのだと。日本人は勤勉、よく働く、ずっとそう言われていたゆえ、この違いにはちょっと驚いた。よく働くが生産性は低い・・・百姓の僕も心せねばならないことだ。夏タイムと冬タイムを平均して僕は1日9時間働く。それでもって、野菜以外の、果物、山菜、卵を含めて栽培品目は100ほどになる。1回の荷物に少ない時で10、多い時で15の品目を収め、月に45個くらいを送り出す。それとは別に自分の食料の半分ほどを畑から得る。しかし・・・月の労働270時間で計算すると単位時間の生産は600円、ドル換算なら5ドル弱。日本人の生産性が低いなんて、とてもよそさまを笑ってはいられない。ただし・・・こじつけみたいに聞こえるかも知れないが、僕の場合は表面に現れない別の「利益」がある。写真家・操上氏が言ったように、農業は体力を鍛える。それでもって病気知らずの僕は医療費がゼロ。また農業そのものがエンタテイメントであるがために、人々が趣味と称する分野でわざわざ遠くに出かけたり美味なるものを食べたりする出費もまたゼロだ。これらに加えて、トラクターを持たない、化学肥料を使わない、消毒剤も使わない・・・こうしたことを加味すれば、時間単位の生産性はもう少し数字がアップするかもしれない。

 今日はまさしく日々是好日だった。青い空に梅が咲く。ビニールハウスの中で2時間ほどスコップ仕事をしたら、背中から湯気が立つほどの汗をかいた。よく働けば何を食べてもうまい、食べたら出るべきモノがすぐ出るというのもシアワセなことだ。時間当たりの生産性が低い。それでも、心に隙間はない、満ちる。今日も、明日も、しっかり生きよう、目の前の困難を日々「口実」とはせずに暮らそう。田舎暮らし、それと日々是好日。まさにふたつはパラレルである。我が人生の選択は概ね間違いではなかったな・・・汗をかいた体を水タオルで拭く、心の中でくす玉を割り、鐘を打ち鳴らしつつ、そう思うのである。

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