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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

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日々是好日/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(51)【千葉県八街市】

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 2月27日「不幸とは、夢中になれることから目をそらせて自分を不自然にたわめていくことの中にある」。

 昨日に続き晴天なのだが、冷たい北風がかなり強く吹く。今ヒヨコが8羽いるのだが、ランニングから帰ってそれらを庭に出す。うち1羽、今日が初めてのお散歩というヒヨコに僕は格別の気遣いをする。順序立てて説明するとストーリーはこうだ。去年4月に岐阜から導入した鶏のヒヨコ30羽。それが成鳥となり、まず不思議なことが起こった。僕が後ろに立つと腰を下ろして交尾の姿勢を取る。たまたま1羽がということではなく、全員が。生後3日から朝から晩までつきっきりの世話をしたけれど、まさか自分がオンドリと思われているとは考えもしなかった。残念ながらオレは希望には添えないぜ・・・せめて・・・そう思い、交尾の姿勢を取るそのお尻を毎回やさしく撫でてやった。

 ところが、チャボの中に生後1年の、若くて精力旺盛なオスがいる。そいつがしきりと自分よりずっと大きな鶏に乗っかるようになった。ただしサイズが合わない。身長差が大きすぎ、そいつは腰をゆすりながら頑張るも、いつもズッコケる。交尾の姿勢というのは、オスがメスのトサカを軽く噛むようにして自分の姿勢を安定させるものだが、身長が足りないゆえにぐらつくわけだ。それでも僕は期待した。もしかしたら受精がうまくいき、チャボと鶏のハーフが出来るかもしれない。のべ30個くらいの卵を抱かせたが、残念ながらずっと不発に終わった。ところが3日前、ヒョッコリ誕生したのだ、チャボのヒヨコの1.5倍、羽の色は鶏とそっくりのが。少しばかり胸が躍った。そのヒヨコを今日初めて庭に出したのである。

 朝食をすませ、畑に出る前にウナギの水槽を掃除した。ガラスには泥がこびりつき、茶色。それを刷毛でこすり落とし、水を取り替えてやった。気温は低く、まだ活動は鈍いが、それでも冬の終わりと春の到来、これを体感しているらしい。1月よりもシェルターから出て来る回数が多くなった。さて、風は冷たいが光はタップリあるので仕事の意欲は増す。畑に向かう。まずはこれからやろう。1か月前に完成させたビニールハウス。例によって寸法バラバラのパイプを使ったゆえに完全な立方体とはならない。それゆえ傾きやたわみが生じる。今日の強風。こういう日にはハウスのどこに弱点があるかがよくわかるのだ。新たなパイプを数本追加し、しっかりと縛ってやった。

 パイプの補修が終わり、ついでだからやってしまおう。鍬を入れ、かなり深く反転し、細かい草や根っこを指先でさぐりながら取る。ここは何年も畑ではなかった。だからすさまじい。水分を多く含んだ土は冷え切っている。でも希望がわく。長くほったらかしの土地だったゆえ、ここはナス科の野菜にとっては処女地なのだ。西側に落葉樹がいっぱいあるので豊かな腐葉土でもある。3月半ばになったらピーマン50本、ナス20本くらいをここに植える。小さいが、確かな希望である。

 かつて僕もファンだった作家・中島らもさんについて天声人語が触れたのは成人の日のことだった。今は故人となった中島さんが通った高校は「化け物みたい」だったという。同級生150人のうち140人が東大や京大に入る。らもさんは、それに入れない10人のうちの1人だった・・・。そして天声人語は著作から次のような言葉を引く。

どこか暗く、苦い10代を過ごしたらしい。だが、高校時代の彼を虜にした「勉学以外のひと通りのこと」は、のちに作家となってからジワジワと役に立った。だからだろう、過去を悔んだり、いつまでも失敗に悩んだりしている人間に何ともやさしい。人は所詮、なるようにしかならない。「不幸とは、夢中になれることから目をそらせて自分を不自然にたわめていくことの中にある・・・」。

 以前に書いた記憶がある。人は好きなこと(趣味)を仕事にすべきではないという意見、それが世間には存在するということを。なぜか。好きなことは大したカネにはならないから。趣味ならば素直に楽しめたものが、それを仕事にしてしまうと楽しめなくなるから・・・そういう理由からだ。一理ある。確かにそうだろうなと、僕も同感するところはある。でも、中島らもさんの言葉の通り、夢中になることから目をそらせてしまうのはやはり不幸なことかもしれない、天声人語を読んだ僕は、今日、北風の中で、冷たい土に手を差し込みながら草の根を取りつつ、そう思ったのだった。何度か書いてきたように、小学校低学年の頃から虫、鳥、魚、そして土の好きな少年だった。団体行動よりも、独りで何かに没頭する時間の方が好きだった。その好きをずっと心の奥にしまい続け、何十年かのちに仕事にしてしまった。確かに「趣味」を「仕事」にするとカネの入りは少なくなる。だが、世間にある「仕事にすると素直に楽しめなくなる」という意見は僕の田舎暮らしには当てはまらない。ちゃんと楽しめている。次から次へとアイデアが沸き、成就しないこともあるけれど、頭に沸いてきたアイデアに取り掛かろうとする瞬間の気分高揚はゼニカネには代えがたい。この気分高揚はどこに現れるか・・・重たい荷物を担いで畑を移動する、その足取りが軽く、力強いのだ。好きなことを仕事にする・・・とは、日々の足取りが軽く、地面を踏む(都会ならばコンクリートの道を踏む)、その力がしっかりしてくることだ。

 夕方5時。荷造りを終え、最後の畑見回りをする。落日直前の太陽が真横からビニールハウスを照射している。ジャガイモたちが幸せそうな顔をしてその夕日を受けている。それを見る僕もまたシアワセである。田舎暮らし、百姓暮らしをいつの日にか、その夢を描くアナタに僕はアドバイスしたい。それが好きで好きで仕方がないのであれば、迷わず、きっぱり、現在の暮らしにピリオドを打って前に進みなさい。中島らもさんが言う通り、夢中になれることから目をそらし続けて生きるのは心にも体にも良くない。ただし覚悟すること。自分にはもう帰り道はないのだと・・・。もちろん、実際にはある。もし移住した先で行き詰まっても、もう一度都会で仕事を見つけることは出来る。しかし、僕が言う「もう帰り道はないのだ」という覚悟には別の意味が込められている。後戻りが出来ないという覚悟が自分に力を与えてくれるのだ。逃げ場を確保してから得られるパワーやアイデアが仮に50だとすると、不退転の覚悟はその数倍のパワーを約束してくれるのだ。たぶん多くの人はちょうど今頃ジャガイモの植え付けに取りかかっているだろう。ごらんのように、僕は1月早々に種を植え、すでに大きく葉っぱを広げている。4月早々には収穫となりそうだ・・・不退転の覚悟はアナタの人生で、このジャガイモみたいな収穫に・・・きっと、つながる。

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