中村顕治
これを書いているのは8月9日。この日現在、僕の畑にある物を思いつくままに羅列すると、大豆、アズキ、インゲン、ニラ、ピーナツ、サツマイモ、ゴボウ、ニンジン、ナス、キュウリ、トマト、ピーマン、ミョウガ、ウド、カブ、タラ、ブロッコリー、カボチャ、キャベツ、シシトウ、生姜、里芋、ジャガイモ、エダマメ、ヤーコン、ヤマイモ、アピオス、キクイモ、アスパラ、ゴーヤ、オクラ、フキ、アシタバ、シイタケ、トウモロコシ、長ネギ。そして今月下旬から9月にかけては、これに白菜、レタス、小松菜、大根、ニンニク、ラッキョ、エンドウ、ソラマメ、カリフラワー、玉ネギ、チンゲンサイなどが加わる。
さて、多くの野菜を休みなく作るとなると、生じる問題は連作障害である。マメ科の後にマメ科、ナス科の後にナス科、アブラナ科の後にアブラナ科は作らない……。初心者でもこのくらいの知識はあろう。しかし現実にはけっこう大変だ。ジャガイモとナスとトマトとピーマンは同じナス科だもの。これだけでも連作回避は容易じゃない。では、どれだけの「休み」を取ればよいのか。僕の経験では3年あけるのが理想的。でも3年は待てないなあ……。その対策としては「栽培しつつ常に新たな土を作って補う」という手を使う。
我が農法で主要な役割を果たすのは夏草とミミズと焚火である。まず夏草。僕は今、6月までエンドウがあった畑に人参をまこうとしている。エンドウの収穫が終わってからの50日はあえてほったらかし。草丈は80cmに達する。体積を増やすため小さいうちの草取りをせず、わざと巨大化させるのだ。それを抜いて山積みとし、米ぬか、鶏糞、カキ殻石灰などを混ぜておく。それがやがて土になる。後でミミズの話をするが、積み上げたこの草の下にはミミズが繁殖、土づくりに一役買う。また、カボチャ、マクワウリなど地面を這うものの下敷きとしてもこの抜き取った草は使える。ここでの大事なポイントは、わざわざ堆肥作りの場所といったものは設定せず、小規模でも、しかし数だけは多く、抜いた草を積み上げる場所を用意し、現在栽培している作物のすぐ隣でゆるやかに新たな土が出来上がってゆく……そんなシチュエーションを常に心がけておくことだ(左の写真がいま抜き取った草。右の写真が抜き取って1か月後にほぼ土と化したもの)。
次は焚火。主に冬場、回数にして20回ほど、体積にして軽トラの荷台で10ないし20杯くらいになる果樹の剪定枝や枯れた孟宗竹を燃やす。燃やす場所はそのつど変える。火を焚くと土中の微生物が死ぬからよくないとも言われる。そうかもしれないが、僕はそれでもって土の消毒と若返りが果たされ、連作障害も回避されると考える。太い竹や果樹の枝が燃焼して出来た灰や炭は自分の経験から言うとやがては虫や微生物を呼び寄せてくれる。
最後はミミズ。あのダーウィンもミミズを研究した。ミミズには「知性」があるとも言った。ミミズは土作りの名人である。農薬や除草剤を多用する畑にミミズはいないが、我が畑には山ほどいる。そのミミズの特性をぜひマスターしよう。彼らが好むのは豊かな水分、餌となる枯葉、それと「直射日光を遮蔽するモノ」である。強い光が当たる乾燥した土は大嫌い。そこで、僕のやり方は、落葉樹の下で、半日蔭となる場所に破れて使えなくなったトンネル用のビニール、段ボール、お払い箱となった衣類などを投げておく。ミミズはそこで栗、柿、桜などの落ち葉を食料として大繁殖する。彼らの排泄物は良質の土となるのだ。除草剤をまき、上から消毒液を噴霧する農法ではミミズも微生物も繁殖しようがない。化学肥料の力を借りて、とりあえず作物は育つけれど、土に地力がないゆえに作物に踏ん張りがきかず、さらに化学肥料や農薬の力を借りねばならないという悪循環に陥る。ミミズ、そしてダンゴムシ、アリ、ハサミムシ、ムカデさえもいっぱい住む土、アゲハチョウ、モンシロチョウ、カナブン、ミツバチ、バッタが飛び交う空間、それこそが自給自足の根幹であると考えたい。この写真は太い杉の木のウロに巣を作ったミツバチだ。たしかミツバチは世界的に年々減少していると聞いたことがある。その元凶もやはり農薬だ。
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1947年山口県祝島(上関町)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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