掲載:2021年10月号
出産を機に、農村集落の古民家で暮らし始めた今村さん一家。自然農に近いスタイルで野菜を育て、梅干しや味噌などの保存食も手づくりしている。4人家族とワンちゃんでにぎやかに暮らす、一家の充実した自給生活を拝見!
震災をキッカケに帰郷。安全な食を自給する!
旅が好きだった今村儀幸(いまむらよしゆき)さん(37歳)・悦子(えつこ)さん(41歳)夫妻は新婚生活を沖縄で過ごし、東日本大震災が発生したときはインドにいた。仙台市出身の悦子さんにとって見過ごせない一大事であり、震災ボランティアを手がける石巻市のNPO活動に2人で参加。仮設住宅の高齢者たちと親交を深めていたころ、初めての子どもを授かった。
「どういう暮らしをすべきなのか、真剣に考えるようになりました。特に私は、安全でからだにいい食べ物をつくりたいという気持ちが強くなって。たまたま古民家に住んでいた知り合いが引っ越すことになり、そこを貸してもらえることになったんです」と悦子さん。
儀幸さんは大工の手伝いをするうちに建築や木工の技術を身につけ、森林整備の仕事なども頼まれるようになった。
借りたのは築90年の大きな古民家だが、「現代建築では防腐剤を塗ってシックハウスになったりするけど、昔の民家は木・土・漆喰と自然にあるものでできている。きれいに解体すれば再生だってできます。そういう建物に魅力を感じました」と話す。
住んでいるのは8世帯の小さな集落で、ご近所からは「あの木を切ってけろ」と頼まれることもあるとか。台所は悦子さんの大切な場所だが、鍋を下げるツールや食器を置く棚などがいっぱい備え付けられている。これも儀幸さんの手によるもの。家のすぐ前の畑も借りられ、雑草などは抜かずに野菜やハーブを無農薬栽培。新天地で理想の暮らしが1つずつ実現していった。
今村家で一番目につくのは、居間に鎮座している時計型の薪ストーブだ。ガスは使わず基本的に熱源はこれだけ。裏山から伐採した木を薪にして燃やし、冬の暖房だけでなく、通年の調理器としてもフル活用している。
「冬の寒い朝に火入れをする瞬間は一日の始まりを感じ、私は大好き。このストーブでコーヒー豆を焙煎したり、米を蒸して麴をつくったり、何かと重宝しているんですよ。保存食もいっぱいつくっているけど、例えば塩もみしたキュウリを生姜醤油で炒めたものは、タッパーに入れて冷蔵。冷凍なら長期保存できます」と悦子さんはほほ笑む。
以前は近くの友人たちと月1回の手づくり市を開き、地元の大豆でつくった豆乳を販売。そこで人脈が広がり、現在も年に数回、ママ友や子どもが交流できるイベントを開催している。
この家にはテレビがない。大昔の日本の暮らしを再現しているようだが、じつは前の住人がリフォームしてシステムキッチンやユニットバスはある。すぐ住める家で子育てに専念できたのは、幸運といえるだろう。
「ストイックになりすぎるのもよくないと、ようやく気づきました。子どもは携帯でゲームもするし、テレビがあってもいいのかな」と儀幸さんは言う。
食の理想追求で始まった今村家の自給生活は、家族みんなにちょうどいい着地点を見つけつつあるようだ。
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文/山本一典 写真/鈴木加寿彦
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