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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

8世帯の集落で手づくり暮らし。時計型ストーブが調理に大活躍【宮城県石巻市】

掲載:2021年10月号

出産を機に、農村集落の古民家で暮らし始めた今村さん一家。自然農に近いスタイルで野菜を育て、梅干しや味噌などの保存食も手づくりしている。4人家族とワンちゃんでにぎやかに暮らす、一家の充実した自給生活を拝見!

庭にあるモミジの大木が遊び場。右から虹(にじ)ちゃん(8歳)、父親の儀幸さん、土(つち)くん(5歳)。

宮城県石巻市(いしのまきし)
宮城第2の都市で、北上川の恵みの大地と世界三大漁場の1つ・金華山沖を抱える食の宝庫。東日本大震災で甚大な被害を受けたが、着実に復興を遂げつつある。東京から東北新幹線と在来線で約2時間30分。

 

震災をキッカケに帰郷。安全な食を自給する!

 旅が好きだった今村儀幸(いまむらよしゆき)さん(37歳)・悦子(えつこ)さん(41歳)夫妻は新婚生活を沖縄で過ごし、東日本大震災が発生したときはインドにいた。仙台市出身の悦子さんにとって見過ごせない一大事であり、震災ボランティアを手がける石巻市のNPO活動に2人で参加。仮設住宅の高齢者たちと親交を深めていたころ、初めての子どもを授かった。

「どういう暮らしをすべきなのか、真剣に考えるようになりました。特に私は、安全でからだにいい食べ物をつくりたいという気持ちが強くなって。たまたま古民家に住んでいた知り合いが引っ越すことになり、そこを貸してもらえることになったんです」と悦子さん。

 儀幸さんは大工の手伝いをするうちに建築や木工の技術を身につけ、森林整備の仕事なども頼まれるようになった。

 借りたのは築90年の大きな古民家だが、「現代建築では防腐剤を塗ってシックハウスになったりするけど、昔の民家は木・土・漆喰と自然にあるものでできている。きれいに解体すれば再生だってできます。そういう建物に魅力を感じました」と話す。

 住んでいるのは8世帯の小さな集落で、ご近所からは「あの木を切ってけろ」と頼まれることもあるとか。台所は悦子さんの大切な場所だが、鍋を下げるツールや食器を置く棚などがいっぱい備え付けられている。これも儀幸さんの手によるもの。家のすぐ前の畑も借りられ、雑草などは抜かずに野菜やハーブを無農薬栽培。新天地で理想の暮らしが1つずつ実現していった。

日陰でくつろぐご近所の輪に加わる。「空き家は不用心だから、隣の家に明かりが見えるとホッとするな」という会話が聞こえた。

「ミニトマトが赤くなってるよ」と母親に見せる虹ちゃん。畑には草が多く、自然農に近いスタイルだ。

キュウリ、ピーマン、インゲンなど収穫した夏野菜。約150坪の畑で、一家の野菜を自給している。

 今村家で一番目につくのは、居間に鎮座している時計型の薪ストーブだ。ガスは使わず基本的に熱源はこれだけ。裏山から伐採した木を薪にして燃やし、冬の暖房だけでなく、通年の調理器としてもフル活用している。

「冬の寒い朝に火入れをする瞬間は一日の始まりを感じ、私は大好き。このストーブでコーヒー豆を焙煎したり、米を蒸して麴をつくったり、何かと重宝しているんですよ。保存食もいっぱいつくっているけど、例えば塩もみしたキュウリを生姜醤油で炒めたものは、タッパーに入れて冷蔵。冷凍なら長期保存できます」と悦子さんはほほ笑む。

裏山の木で薪をつくる。ガスを使わない今村家では貴重な燃料源で、消費量は多い。

炒めたり、煮込んだり、ふかしたり、調理に大活躍している時計型の薪ストーブ。屋外にピザ・バーベキュー用も1台ある。

 以前は近くの友人たちと月1回の手づくり市を開き、地元の大豆でつくった豆乳を販売。そこで人脈が広がり、現在も年に数回、ママ友や子どもが交流できるイベントを開催している。

 この家にはテレビがない。大昔の日本の暮らしを再現しているようだが、じつは前の住人がリフォームしてシステムキッチンやユニットバスはある。すぐ住める家で子育てに専念できたのは、幸運といえるだろう。

「ストイックになりすぎるのもよくないと、ようやく気づきました。子どもは携帯でゲームもするし、テレビがあってもいいのかな」と儀幸さんは言う。

 食の理想追求で始まった今村家の自給生活は、家族みんなにちょうどいい着地点を見つけつつあるようだ。

梅雨明けの晴れの日にウメを干す悦子さん。梅干しだけでなく、梅酒や梅シロップもつくっている。

毎年つくっている味噌や梅酒など。今村家の台所には保存食があふれている。

すぐ近くの田んぼで愛犬ハッピーちゃんとお散歩。北上川に近いこの風景も悦子さんのお気に入りだ。

 

石巻市移住支援情報
家の紹介や起業・就業を支援。住宅取得に最大150万円!

宮城県北東部の太平洋に面している石巻市は、海の幸や山の幸が豊富。移住相談窓口を設置し、空き家バンクによる家の紹介や起業・就業などを支援している。市外から転入しての住宅取得で最大150万円の補助、市内のDIY可能賃貸物件に移り住んで改修する場合に最大50万円の補助のほか、中学生以下の子どもの医療費助成などの制度がある。また、宿泊料・レンタカー代負担なしでお試し移住体験ができる。

お問い合わせ:地域振興課

☎︎0225-95-1111

https://www.city.ishinomaki.lg.jp

市内北上地区ののどかな田園風景。

お試し移住として利用できるシェアハウス「OGAWA 」。(写真提供:巻組)

「いすのまぎいいどごだがらきてけらい(石巻いいところだから来てください)」(地域振興課地域振興グループの小島裕之さん)

 

文/山本一典 写真/鈴木加寿彦

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