掲載:2021年10月号
炭焼きなどを手がける柳沢悟さん、かご作家の熊谷茜さん夫妻はともに首都圏の出身。山形で出会って結婚し、作業小屋を意味する「kegoya(木小屋)」という屋号を名乗って多彩な活動を展開している。
雪国だからこそできる、山に寄り添う暮らし
「ねえ、この柿食べたいよお」と悠音くんがおねだりすると、すかさず「かじってごらん。甘ければ甘柿だし、豆柿(小さな渋柿)なら舌がピリピリするから」と茜さん(41歳)。何げない親子の会話だが、何でも体験させる母親の愛情が伝わってきた。
この日は染料などに使う柿渋づくりの共同作業。豆柿を枝から落とし、おしゃべりをしながら細かく切り刻み、各自が沢水の入った瓶に浸し、1〜3年くらい発酵させる。火も使わないまったくの天然素材だ。
コロナ禍で規模は縮小しているが、この柿渋づくりだけでなく、かごの材料を集めたり、ウメを収穫したり、流しそうめんをしたり、さまざまな催しで地域の人たちが集まってくる。
「夫婦だけだとそれぞれの仕事を優先してやらない作業も、みんなでやるから楽しいんですよ。小国町も高齢化が進み、昔の生活の知恵が忘れ去られようとしています。私たちが少しでもそれを受け継いでいければ」と茜さんは話す。
東京生まれの彼女は自然にかかわる仕事がしたいと、18年前に山形県の森林体験施設でクラフト教室を担当。同時にザルなどの生活用品を手づくりする地元の高齢者と交流を深め、かごづくりに目覚めた。その自然な作風は、ポーランドで開かれた世界かご大会で入賞するほど評価が高く、多くのファンを持つ。
夫の悟さん(40歳)は有機農業をやろうと全国を回っているうちに、小国町で炭焼きをしている人と出会い、この地で活動することを決断。炭焼きは主に冬の仕事だが、多いときで年に900㎏もの白炭を生産していた。
「徹夜仕事が続くので、子どもが生まれて規模を縮小しました。材料のナラ材は山の持ち主でさえ場所がわからなかったり、共有地だったりするので、人脈を頼りに集めています」
雪国の小国町にはマタギ文化も息づいており、4月のクマの害獣駆除には悟さんも参加する。5月〜6月は山菜採り。自宅の近くに広い共有地があり、会費を払って使用権を得ている。山からの豊富な栄養分によって上質のゼンマイが収穫できるのだとか。早朝の2時間だけで20㎏以上にもなる。
夏から秋は有機農家となり、米、野菜、蕎麦、麦などを栽培。町には労働や作業を重視するミッション系の高校があり、そこにジャガイモも納品している。もちろん、マイタケなど秋のキノコも豊富。自然相手の作業は一家に自給をもたらし、収入源にもなっているのだ。
「雪国だからこそ、やることが一年中ある。高齢者が多いから、たまに雪下ろしだって頼まれるんですよ」と悟さん。
自宅の周りには、板倉を移築した茜さんのアトリエを含めて作業小屋がいっぱい。山に寄り添う夫妻の暮らしには、「木小屋」という屋号がピッタリだ。
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文/山本一典 写真/鈴木加寿彦
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