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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

僕の百姓メシ/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(47)【千葉県八街市】

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 10月27日。「生も食も/煮返し深まるスープの豊穣」。雲が広がる時間もあったが、チャンと布団が干せる空模様だった。焼き芋の朝食をしながら今日の仕事の段取りを考える。今日の荷物は2つ。どの順番で収穫するのが効率的か。あれに要する時間は30分だな、これに要する時間は1時間ほどだろうな・・・いつも収穫物にただ向かって歩くということはしない。乾燥が続いているので水やりすべき作物はいくつもある。左手に鍬、右手に水の入ったバケツを持って、例えばサツマイモ、例えばヤマイモの現場に向かい、向かう途中でバケツの水を、水が欲しそうな顔をしているキャベツやカリフラワーに掛けてやるのだ。この年齢、思考力はだいぶ落ちてきたと自分でも思う。ただ、オレは認知症にはならないだろうな、なんて妙な自信がある。時間の計算が精密で、かつ、毎日計算通りにやれるからだ。『脳を鍛えるには運動しかない!』(NHK出版)という本があったのを思い出す。運動がもたらす、ストレス、うつを改善し、認知症を防ぐという驚きの効果を示したハーバード大学医学部准教授の著書だ。たしかに運動は精神と連関している。前に引いた『老化が止まる食事術』に「体のサビを止める」という表現があったが、毎日運動することが頭のサビ止めになる・・・スコップと鍬だけの農業を(アマチュア時代を含めて44年)続けている僕はそう実感する。だから、こじつけみたいに聞こえるだろうが、田舎暮らしにはまさしく、ウツや認知症の予防効果があると僕は考えるのだ。

 植えて5年という温州ミカンの実が色づいてきた。今年はミカンに不幸が生じたので、そのぶん黄色味を帯びてきた実が秋の日に映えているのが嬉しい。不幸とは、植えて35年という木2本が前後してあっさり枯れてしまったのだ。枯れる直前、驚くべき数、初めて見るような盛大な花を咲かせていた。よっしゃ、今年は豊作だぞ・・・それがなんと突然死と言ってもよいくらいあっさりと枯れてしまったのだ。この夏の猛暑と関係あるのだろうか。いや、もしかしたら違うかも・・・僕はちょっとおかしな想像をめぐらせた。枯れたミカンの木は自分の命が間もなく尽きることを知っていた。それで、死ぬ前に、残った力をふりしぼり、最後のひと花を咲かせて見せようじゃあないか・・・そう思ったのではあるまいかと。

 今日は荷物2つ。一般の注文と、もうひとつは『田舎暮らしの本』の読者プレゼント当選者。品物の説明と、田舎暮らしの夢が早く実現するよう祈ります・・・の手紙を書きながら、いつも、どんな人だろうかと僕は想像する。どんな仕事を今はしているのか、年齢は、田舎暮らしが実現したら最もやりたいと考えているのは何だろうか・・・たまたま今日の朝のテレビを見て、僕は「ゆるブラック」という言葉を知った。ブラック企業というのはまさしくイケナイ会社。それに対して、ゆるブラックとは、仕事はラク、残業もない、上司もうるさいことを言わない。しかしやってて張り合いがない。それでもって転職を案じる・・・。ああ、時代が変わったんだなあと思う。われらの時代、暗黙のうちに、入った会社では定年まで働き続けるのだという相互の認識があった。思うに、キツイのは嫌、ラクすぎるのも嫌。たしかにニュートラルは人生の理想かもしれない。

 今日の見出し「生も食も」は、朝日新聞の文芸時評、作家・古川日出男氏の言葉を拝借した。今回の時評は食べるものをキーワードとした作品がいくつか紹介されているのだ。冒頭、古川氏はこう綴る。

まずコロッケを揚げる。それからパンをトーストして、隙間なくバターをのせる。最後に刻んだキャベツとコロッケにウスターソースをかけて、二枚のトーストで挟む。これでコロッケパンの完成ですと、この時評を始めたら「なんだ、なんだ?」と注意を集めるかもしれない。それが江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』(角川春樹事務所)が持った力である・・・。

 真似してコロッケパンを作りたくなった僕。たまたま今日から秋ジャガを掘り出している。すぐコロッケは作れるよな・・・僕は以前から江國香織さんの愛読者なのである。

 10月28日。「もう一度、宝島社の本を引かせていただく、それも2冊も」。今日も気分よく働ける空模様である。まずはサツマイモ2畝をすべて掘り上げる。跡地にソラマメを植えるためである。僕は毎年、サツマイモをいっせいに掘り上げるということはしない。土に手を入れて大きなものを探し当て、毎日必要な数だけを収穫する。今年はその初日が7月24日だった。そして今日、いっせい収穫となったのは、もうソラマメの播種適期が限界にきているからである。サツマイモはマルチで作った。そのマルチをなるべく破りすぎないように気を付けて、ソラマメを埋めていく。続いての作業はジャガイモ。秋のジャガイモは春ものに比べると収量少なく、品質も少し劣る。そうとわかってはいても、やっぱり作りたくなる。何の本だったか、「ジャガイモはビタミンCも豊富で、非常時には、これさえ食べていればしばらく生き延びられる・・・」そんな記述があった。もしかしたらそれが僕の頭にこびりついているせいなのかもしれない。今夜はこれでコロッケを作ってみようか。

 このところ、連日休みなく荷物を作るので古新聞も底をつき、毎日、当日の新聞を野菜の包み紙として使っている。そして今日、目に入った。読売新聞では『医者が教える健康の新常識』、朝日新聞では『シニアの断捨離』。いずれも宝島社の本である。いわく。腕が上がらなくなったら上の棚を空にする、つまずきを防止するためには床置きをやめる、物忘れが増えてきたらモノを減らして管理する・・・自分に当てはまることもあり、当てはまらないこともある。断捨離という言葉がしきりと言われるようになってけっこう久しい。時には「それで人生が変わった・・・」とまで絶賛する人も世間にはいるようだ。が、僕はまるで出来ない。なんでだろう、生まれた時代が貧しかったせいか、根がケチな性格なのか・・・ともあれモノを捨てられない。穴があいたりゴムが緩んだりしている衣類も、パンツならどうせ人には見えないと思い、ゴムの緩んだズボンなら紐で縛って着用する。その他、切れた電話線、すり減ったカーペットもハウスの棒を縛ったり、冬場の野菜防寒のために使えるはずだと捨てずに取っておく。というわけで、まだごみ屋敷とまではいかないが、いずれはそうなるであろうというのが我が住まいなのである。

 もう1冊『医者が教える健康の新常識』には「あなたが信じる健康法は間違いかも!」というリード文がある。そしていくつかの事例。「風邪かなと思ったら早めに薬を飲むは×」、「肌にいいのは夜10時~2時の睡眠も×」、「適量の酒は脂肪肝や心臓病の抑制になるは〇」・・・365日、僕はアルコールを口にしないことはない。ただし夏のビールなら350ml、秋のワインなら大きめのグラスに1杯だけ。風邪薬は・・・飲んだことがない。風邪を引いたことがないからだ。たしか、医学的には、風邪は風邪薬では治らない、というのが定説だったよね。僕が「信じる健康法」とは何だろう。何度か書いたことだが、ちょっとキツ目の運動を毎日欠かさずやる、汗をいっぱいかく。肺と心臓を大いに動かす。ほどよく疲れた体で深く眠る。さらに、なんでも食べる。そして、毎日決まった時刻に排便する。予期せぬ出来事が生じても、慌てず、悲観せず、たいていのことはなんとかなるものさ、青い空を見上げながらまずそう思い、しかし、生じてしまった目の前の難事には全力で対処する・・・万人に適するかどうかはわからない。でも、僕はそれでもって風邪は一度も引いたことがない、動悸、息切れ、肩こりに無縁という体調を保持、猫や鶏が見せる滑稽な姿を見て声を出して笑う、そんな暮らしをしている。

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