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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

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僕の百姓メシ/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(47)【千葉県八街市】

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 10月26日。「肥料争奪戦の時代」。心地よい天気はまだ続く。仕事がやりやすいばかりでなく、心がふわっと空に舞う。今朝は1周500メートルのコースを周回することにした。なぜか・・・サツマイモの皮をむき、天ぷら鍋に入れておく。天ぷら鍋は電気式で、太陽光発電につなぐ。そしてスタート。ちょっと厚目に切ったので、たぶんイモが揚がるまで10分くらい。2周目で、部屋に上がらずともよい庭先にセットした天ぷら鍋をのぞいて見る。よっしゃOK。新聞紙に取り出しておいて、また走りに行く・・・。

 僕のサツマイモの食べ方はふたつ。焼き芋か今日のように素揚げ。素揚げの場合、朝食だけでなく晩酌のワインのつまみにもなる。子供の頃のサツマイモの味はイマイチだったなあ・・・。決まってふかしイモだった。今は数えきれないくらいの優れた品種があるが、品種改良がされていない70年近い昔、ふかしイモばっかりというのは単調だった。それで、小学生の僕は油で揚げたらうまいんじゃないかと考えた。当時の天ぷら油は貴重品で、僕のアイデアは油が勿体ないと家の者に叱られたが、強行した。思った通りにうまかった。でもって、百姓になった現在は頻繁に素揚げにして食べている。

 さてやること山積だ。ずっと不調だった大根、白菜、キャベツの成長がようやく進んできた。大根は込み合っているところを抜き取って今日の発送荷物の1品とする。白菜とキャベツは畝間に鍬を入れ、土を寄せてやる。それから、鶏糞と米ぬかを混ぜた肥料をバラバラと株間に投げてやる。さあみんな、大きくなってくれよ・・・。いまダン・イーガン著『肥料争奪戦の時代』(原書房)という本を読んでいる。この本で言う肥料とは、野菜生育に必要な3要素、チッソ、リンサン、カリのうち、リンサンに焦点を当てて論じたものだ。この本を読んでみたいと思わせたのは9月10日読売新聞の書評欄の評者、ノンフィクション作家・堀川惠子さんが示したエピソード「ナポレオン戦争の後には欧州に散らばる遺骨が秘密裏に粉砕され、優れた肥料として撒かれた・・・」という記述だった。僕は直感として、死んだ生き物の骨は地中で栄養素になる、そう思い、これまで30年余り、飼っている犬、猫、山羊、鶏などすべてを畑に埋めてきたが、そうか、戦争で死んだ人間の骨を肥料にしていたのか・・・驚きだった。リンとは、太古の昔に絶滅した生物の大量の化石層と、それを取り巻く堆積岩から得られる。それを細かく砕いて酸に浸すと、農作物の成長を驚くほど促進する肥料(リンサン)になることが判明した。ただし、埋蔵量には限りがある。いずれ枯渇するかもしれない。自国民の食料確保のため、リンの争奪戦も起こりえる。それがこの本のタイトルの由来である。

 リンは植物の成長に欠かせないだけでなく、人間が食べたものを、筋肉を動かす化学エネルギーへと変換する。我々の骨や歯はリンで出来ており、DNAの1元素でもある。「リンなくして地球上に生命は存在しない」、著者はそう述べている。しかし、いいことばかりではない。化学肥料として使用されたリンは、かなりの割合で植物に吸収されないまま河川や下水道、海に流れ出る。そこを汚染する。川では泳ぐことも、釣りをすることも、飲料水に使うことも不可能になる。不思議なことに、そのリンを格好の餌として強烈に繁茂する藻があるらしい。それは毒を持ち、生物兵器にもなる有毒ガスを発生し、万一その藻の中に転落すると死ぬ危険もある。ゆえに著者は化学肥料の乱用に警鐘を鳴らす・・・。

 僕は初めて知ったが、殺鼠剤の原料はリンなのだという。そうか、そんなに怖いものなのか、リンという物質は。化学肥料を大量に使う農家も、それを食べている消費者も、これにはほとんど関心も知識もないだろうと思う。先に触れたノンフィクション作家・堀川惠子さんはこう記している。

世界人口は増加の一途、食糧増産が急務だ。だがリンを濫用し続ければ環境破壊は進む。人間の脳を侵し、生態系も破壊。地球はリンの洪水に覆われつつある。日本ではリンを巡る危機はなぜか石油ほど注目されていない。SDGsの虹色バッジで闊歩する皆さんにぜひ手に取ってほしい1冊だ。

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