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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

僕の百姓メシ/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(47)【千葉県八街市】

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 10月22日。「自分でやると決めて実行していくことの積み重ねがなまけ心を減らしていきます」。昨日の天気予報通り、かなり冷え込んだ朝。ランニングシューズを履きながら僕は思った。あの狂ったような暑さからまだ40日。畑の野菜たちはどんな気持ちでいるだろうか・・・と。大いに冷えた朝ゆえ屋上庭園の火鉢に火をおこし、しばしのくつろぎを兼ね、ポポーのジャムを作ることにする。日持ちの悪さで言うと果物のなかでダントツのポポー。たぶん200くらいはあると思うが、僕はそれを冷凍庫に入れておいた。今日はそのジャム作りなのだ。中に大きな種が10個くらいある。それを取り出すのがちょっと手間だが、そのあとはじつに簡単だ。ハチミツを加え、強火で10分もたたないうちに仕上がる。

 朝は寒かったが日中は日差しも強く、カラッとした天気で快調に仕事ができた。荷造りを終えたのは午後4時半。次の写真の1枚目は荷造りを終えた直後の我が職場だ。野菜洗いに使ったバケツが数個。包み紙として使った新聞の切れ端。新聞の間から出てきた広告チラシ。段ボール。野菜クズ。カッター、ペン、メモ用紙、包丁。いつもこの乱れようをそこそこ片付けて1日が終わる・・・。もう日暮れが近い。でも、ギリギリあと1時間働けるかな。昨日に続きチンゲンサイの間引いたものを移植しよう。その移植現場にはヤブカラシが繁茂し、深く地中を這った根っこ退治にはかなりの時間とパワーを要する。どうにかその根っこ退治を終えて、もうアガリの時刻だな、いったんはそう考えたのであるが、待てよ、やってしまおうかな、やれるかも・・・。日中の移植だと強い光に当たってぐったりするが、暗くなったいま植えておけば夜露もかかって活着が早い。ニワトリたちの邪魔も入らない。部屋にある太陽光発電のインバーターから長いケーブルを伸ばし、サーチライトを灯した。少し見えにくいが移植作業はやれる。5センチ足らずのチンゲンサイを浅からず深からず、指先で調節しながら土に埋めてやる作業に、不思議なことに僕の胸ははずむのだ。もし誰かがそばを通りかかったら真っ暗な畑の中に強烈な光、そこに動く人影・・・ギョッとするかもしれないが、我が精神は一直線、かつ楽しい気分。似ているかも。少年が、親には内緒でこしらえた秘密基地で遊ぶ、あのコーフンに。

 そんな夜の作業をしながら思い出したのは10日ほど前の朝日新聞「こころのはなし/ひとつのことやり続けるひけつは」。語るのは会社勤めの経験を持ち、比叡山延暦寺で「千日回峰行」を達成、12年間籠って修行し続ける「十二年籠山行」をも成し遂げている藤波源信さん。冒頭、やろうとするけど、結局何もできない人もいます、そう問いかける記者に対し、こんなそっけない回答をする。

それはどうしようもないですね。そのまま海に流され、自分の人生は何だったんだろうと思うしかない。あれもしたい、これもしたいと言いながら行動に移せないのは、つまりやりたくないんです。自分の中にある「なまけ心」です。

 始めても、結局続かないことが多いです。どうしたらいいでしょうか。

続けようと思っても続かないのは、向いていないか、そのことへの思いが弱いか。つまり、好きじゃないってことですよ。違うことに興味を持ったほうがいい。ただ、割り切ってしまうのもひとつの手ですが、投げ出さずに最後までやり切ることも大切です。最初は苦痛でしかなかったことも、だんだんとおもしろさがわかってきます。途中でやめてしまうと、次に何かを始めたとしても中途半端で終わってしまい、それが何度か繰り返されると、その人の性格になってしまう・・・。

 誰もが耳を傾けるべき重い言葉である。続けようと思っても続かないのは、向いていないか、思いが弱いか。まさしくそうだなと僕も思う。途中で投げ出したことは他にあるけれど、畑仕事とランニングと自転車は40年、50年と続けられた。まさに好きだったからだろう。今日こうしてサーチライトをつけて午後7時まで働いたのも、好きなこと、やって楽しいことであるからだろう。ラクじゃあない。キビシイことが折々に生じる。しかし、その厳しさをも何とか乗り越えようと頑張れる、それはひとえに好きだからだ。かつまた、キビシサを乗り越えようとするプロセスに不思議なほど手応えを感じるからだ。千日回峰行とは天と地ほどの差がある。だが、独り、ひたすら歩み続けて長い歳月を生きる・・・その点においてはどこか似ている。

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