前回から建前が始まった和田邸の「玄関」。今回は一応、垂木まで完成させるのが目標なんだが……、相変わらずの現場合わせで雲行きが怪しい。
掲載:2020年1月号
施主の現場合わせで待ち時間が長い!?
ずさんな刻みとテキトーな「現場合わせ」で、なかなか作業が進まない和田邸である。しかも今回はなぜか、独立基礎の上に柱を立てる「石場建て」を採用。足固めの材を柱にホゾで入れ込むという古民家でよく見られる面倒な木組みを使うというのだ(イラスト参照)。
中山「なんで、土台を回して柱を立てるって定番の工法にしなかったのよ?」
和田「毎回、同じじゃつまらないかなと思って。新しいことに挑戦したいのよ」
水野「そういうことしているから工期が遅れるんじゃない?」
阪口「構造的にも弱い気がするんだけど、どうなのかな」
和田「もう! いちいちうるさい!」
前回に引き続き、柱を立てながら土台を組むが、そのままだと柱が自立しないので、担当・水野が柱を支えている間に土台を差すというやり方で作業を進める。場所によっては差し鴨居も同時に組まなくてはならないので、これもやっかいだ。さらに「腰掛け」(梁や桁を組むときに柱に入れる15㎜程度の切り欠きのこと)を入れたり、ホゾの位置がテキトーだったりして、現場合わせでの調整が多く、助っ人一同の手持ちぶさたな時間が過ぎていく……。ようやく土台と柱が組み上がったころには午後になっていた。
軒桁丸太の登場! 相変わらずの左右間違い
次は桁を組んでいくわけだが、その材料を見た一同は絶句した。
桁材の太さがそれぞれ違うのだ。中央の桁は7寸(210㎜)角の極太材で、母屋側は3寸5分(105㎜)、軒桁は150㎜径の丸太である。さらに、阪口から「垂木を支えるのに桁3本じゃ弱いんじゃね」と忠告を受け、あとから付け加えた2本はその辺に転がっていた75㎜角の廃材である。
前にも触れたが、「間四(けんし) 」という法則がある。柱と柱の間隔を1間(けん)(1820㎜)飛ばすには、「せい」が4寸(120㎜)の梁を入れればOKというものだ。つまり2間(3640㎜)飛ばすには8寸(240㎜)の「せい」が必要なわけだが……。
和田「なにしろ75㎜角材だからね!」
一同「細せー!!」
阪口「自信満々で言うところがまた、すごいな」
水野「でもさ、草屋根にするんでしょ。重いよね」
和田「大丈夫大丈夫! 母屋はこの間の台風でも、ぜんっぜん大丈夫だったしね!」
あれだけずさんな施工でも屋根が飛ばなかったことを、ことさら強調するテキトー施主である。
中山「この場合、横幅はさほど重要ではないわけだから、真ん中のぶっといのをタテ割りして2カ所に使えばよかったのでは?」
一同「おお……。その手があったか」
和田「今からだと面倒だし! それに軒桁は丸太だから!」
中山「また丸太……(泣)」
阪口「たまには担ぎ上げる立場になってみろよ」
一同「オマエは写真撮ってるだけだろ!」
阪口「なに言ってるんですか! ドローンの撮影は大変なんだよ」
中山「あー、さっきからブンブンやかましいのが飛んでると思ったら、ドローンだったのね」
水野「意外とうるさいよね。虫みたい」
和田「自家製ハエ叩き、貸そうか?」
阪口「やめて!」
水野「あとね、真下に立つと扇風機みたいで涼しいの」
阪口「そういう使い方しないで!」
さんざんツッコミが入ったところで作業再開である。差し鴨居や梁が組み上がったら、続いて手こずりそうな軒桁丸太が登場。
阪口「老婆心ながら言っときますが、左右を間違えないようにね」
和田「大丈夫! たぶんこっち!」
一同「『たぶん』ってなんだよ!」
和田「間違いない! こっち!」
水野「絶対だよね?」
和田「しつこい! 絶対こっち!」
阪口「間違ってたら帰っていい?」
和田「大丈夫だってば! 疑り深いなあ、みんな!」
一同の念押しをはねつけて、「せーの」で丸太を持ち上げる。そして一気呵成(かせい)に柱の天端まで担ぎ上げた。
しかし……、ああ。なんということか。ここでもまた、ホゾが入らないのだ。カズさんの進言で、ホゾとホゾ穴は事前に測ってあった。それでもはまらないのである。
これはどう考えてもおかしい。
なぜだ……?
一同が頭をひねっていると、和田が大声で叫んだ。
和田「わかった!」
一同「おお! 原因は?」
和田「左右逆だ!」
一同「……」(言葉もなく押し黙る)
和田「いったん下ろそう!」
一同「……」(言葉もなく押し黙る)
和田「ちょっと! どうしたの!」
一同「……」(言葉もなく押し黙る)
中山「……帰ろうかな」
和田「ちょっと待って! あと少しだから! これ上げれば今日は終わり! ね!」
阪口「なんかもうね、力が抜けちゃったよね」
水野「あれだけ左右間違えないようにって口酸っぱく言ったのにね」
中山「前も言ったけど、なんでこういうことになるのか、一度しっかり考えてみたほうがいいよ」
和田「……ホ、ホラ! ネタだから! ネタ!」
結局、丸太材を下ろすのは大変なので、梁の上で1回転させて、なんとかはめ込んだのであったとさ。
家起こしで傾きを矯正。でも仮筋交いを外せば元に!?
ようやく構造材が組み上がったら、次は棟上げ……の前に、忘れてはいけないのが「家起し(やおこし)」である。「家起こし」とは柱の前後左右の傾きを矯正することだ。矯正した柱同士は「仮筋交い」で固定する。この作業を忘れると、サッシ枠を入れるときなど後々の作業が非常に面倒になるのだ。
和田が持ってきたのは、昔ながらのサゲフリであった。
中山「もっといいのなかったっけ?」
阪口「そうそう。メーカーさんが貸してくれたレーザー水準器」
和田「そうだった!」
水野「忘れてたでしょ?(笑)」
和田「わ、忘れてないから!」
中山「これほど高級品が似合わない男もいないよな」
一同「オマエもな!」
レーザー水準器を使ってみると、全体に南側に傾いていることが判明した。そこで一同全員で柱を押し付けて矯正。その間に仮筋交いで固定する。
阪口「ところでさ……、筋交いって、入れるよね?」
和田「もちろん! こことここに入れるから!」
水野「てことは、ほかは全面サッシ窓になるわけ?」
和田「そうだね!」
中山「素朴な疑問なんですが、仮筋交い外すと元に戻っちゃうよね?」
和田「そうだね!」
中山「でも外さないとサッシ入らないよね?」
和田「そうだね!」
中山「どうすんの?」
和田「わかんない!」
一同「……はあ?」
一難去ってまた一難。難問続きの和田邸玄関(作業スペース?)。果たして完成するのか……?
文/中山茂大 写真/阪口 克 イラスト/和田義弥
過去記事はこちら!
第1回 基礎工事
第2回 墨付け、刻み
第3回 柱、梁、桁の刻み
第4回 棟上げ目前
第5回 棟上げ
第6回 棟上げ
第7回 棟上げ
第8回 足場組み、家起こし
第9回 屋根
第10回 屋根材張り&プロによる中間チェック
第11回 壁の施工、窓の取り付け
第12回 差し鴨居
第13回 外壁
第14回 はめ殺し窓、下見板
第15回 床の施工
第16回 荒床張りと電気の引き込み
第17回 ウッドデッキ
第18回 天井張り
第19回 内装工事
第20回 水回りの施工
第21回 トイレの設置
第22回 下水管の接続
第23回 下水管の接続
第24回 キッチンの施工
第25回 トイレ後日談
第26回 キッチンの施工
第27回 土壁塗り
第28回 内装&焼き杉
第29回 漆喰塗り
第30回 洗面所の施工
第31回 洗面所の施工
第32回 風呂の施工
第33回 給湯器の取り付け
第34回 混合栓の取り付け
第35回 浴槽の設置
第36回 サッシ窓の取り付け
第37回 内装や配管など
第38回 薪ストーブの設置
第39回 薪ストーブの設置
第40回 出来栄えチェック
第41回 DIY座談会&和田邸プレイバック
第42回 玄関づくり-刻み
第43回 玄関づくり-組み上げ
人力社
ライター中山とカメラマン阪口、 ライター和田の旅とDIYを得意とする3人組トリオ。「人力山荘」シリーズでは中山の母屋リフォーム、中山のアネックス新築DIY、和田の自宅新築DIYを連載。阪口も自宅をDIYで新築している。
人力社HP➡www.jinriki.net
阪口HP➡https://www.sakaguti.org
和田HP➡http://www.wadayoshi.com
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