田舎暮らしの本 Web

  • 田舎暮らしの本 公式Facebookはこちら
  • 田舎暮らしの本 メールマガジン 登録はこちらから
  • 田舎暮らしの本 公式Instagramはこちら
  • 田舎暮らしの本 公式X(Twitter)はこちら

田舎暮らしの本 5月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 5月号

3月3日(月)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

君たちはどう生きるか/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(48)【千葉県八街市】

執筆者:

 11月30日「お金は神か」。朝は冷える。しかし日中は過ごしやすい。今日も昨日と同じ天気である。ほぼ満足する天気だが、4時前には畑から光が消えてしまう。日没が早いだけでなく、南西に20メートルにも及ぶ高い木が並んでいるせいだ。それでもって、夕刻は気ぜわしい。荷造りが完了するのが4時くらい。さあ、真っ暗になるまであと1時間・・・いつも焦るのだ。

 今、ああ、これ観たいなあという映画がある。岸井ゆきのという女優が主人公の『ケイコ 目を澄ませて』。

東京の下町。ケイコは弟とともに暮らし、ホテルで室内清掃係として働き、ボクシングジムに通っている。故郷の母はいつまで続けるのかと気遣うが、ケイコは日々練習に励む。ジムの会長もトレーナー2人も、(耳の聞こえない)ケイコを少しも特別扱いしない。ケイコがジムで練習を始めるや、グローブをぶつけ合う音、靴と床の摩擦音など、物音の新鮮さにびっくりする。そして・・・彼女は両耳とも聞こえないプロのボクサーなのである。

 ストーリーは創作であろうが、ホテルの室内清掃係として働きながらボクシングを続ける、そんな女性の生き方に僕の血が少し騒ぐ。離れたところから都会を眺めている今の僕には、自分に負荷をかけず、「でも懸命に」生きる人が都会には多いように思える。例えば「推し」という言葉を旗印とし、右へ左へと駆け回る人・・・歌手や芸人に熱中するのはいい。しかし、それと同時に、自分自身を時には推して、後押しすることも人生には必要ではないか・・・。

 仕事で行ったり来たりする台所裏の狭い通路。そこにジャガイモが芽を出しているのに今日また気が付いた。以前ここの台の上には小さなジャガイモがいっぱい入った箱があった。いずれは茹でて食べるつもりだったが、ニワトリがその箱をひっくり返し、拾い集めることなしにほったらかしにしてあった。そしたら、ろくに陽の当たらないその場所でジャガイモたちは次々と、ヒョロヒョロながらも懸命に芽を伸ばしているのだ。見捨てておけず、あえて手間をかける、そのわけは、イモたちの姿に僕の心がじわっと打たれるせいだ。ただ転がっただけだからイモたちは土の表面にある。その土の表面に細い根っこをいっぱい這わせ、根っこの先端を必死に地中に潜り込ませようとしている。これこそまさに、懸命に生きる姿だ。僕はそう思う。よっし、うんと陽の当たる、ここよりずっと暖かい場所にオレが連れてってやるぜ・・・。根っこを切らないようにそっと掘り出し、イチゴのハウスの余白部分に植えてやることにしたのだ。きっと春、3月には自家用の小さな芋くらいは収穫できるだろう。

 その作業で入ったビニールハウスでイチゴの花が咲いているのに気が付いた。色がピンクという品種であるせいでもあろうか、目の前がパッと明るくなった。僕の気持ちも明るくなった。やがて氷の張る寒さが到来する。ビニールハウスの中とはいえ、夜は、我々人間が毛布1枚で屋外に寝るような寒さだ。どうなるのか、この花は。実は春のものより小ぶりかもしれない。甘さもさほど乗らないかもしれない。でもいい。この花の頑張りが僕には嬉しい・・・。さて、11月も今日で終わり。そして、11月分の荷物発送も今日で終わりだ。ジャガイモとサトイモを掘る。大根を抜く。ニワトリが近くにいないことを確認し、トンネルのビニールを持ち上げ、チンゲンサイを抜き取る。午後1時に作業を始めて、手紙を書いて、ガムテープでパチンと箱を止めて完了したのが4時。ふふっ、今日も立派に、ジイチャンは3000円を稼いだぜ・・・すぐそばで、退屈なのか、ゴロゴロしている猫のブチに向かって僕はささやきかける。

この記事のタグ

この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

田舎暮らしの記事をシェアする

田舎暮らしの関連記事

脱・東京。モバイルハウスで探す新しい幸せ【神奈川県相模原市・藤野】

【はらだみずき】脱サラ作家の自給的な田舎暮らし。200万円の古民家でDIY、農業、薪ストーブ!【群馬県安中市】

養蜂、狩猟、DIY、森づくり。自給自足の田舎暮らしはすべてが遊び【千葉県勝浦市】

イチゴは穫るほどに実を付ける!遅れず次々収穫するのがポイント/竹内孝功さんに教わる自然菜園のスゴ技【第14回】

和田正人さんインタビュー「自分らしく生きていく。それをまっとうできたやつが勝ちだと、思っているところがあるんです」

「女性おひとりさま移住」を成功させる10のポイント ~田舎暮らしベテランライターと、実際に1人で移住した女性ライターにお聞きしました~

《一人暮らし・老後も安心》《シニア専用ハウスあり》高台で海山一望の大規模ニュータウン「伊豆下田オーシャンビュー蓮台寺高原」【静岡県下田市】

【人口20万人以上のまち・秋田市】3年連続 住みたい田舎ベストランキング『若者世代・単身者部門』で1位|クリエイティブな取り組みで夢に挑戦したい若者を応援!

就職に関する相談を親身にサポート! 田村市の「お仕事に関する相談窓口」。移住者を受け入れている事業所の紹介や求人も【福島県田村市】