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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

君たちはどう生きるか/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(48)【千葉県八街市】

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 11月26日「くろうとはどの道の人も、みんなあと片付けがうまい」。冷え冷えとした空気の朝である。そこに霧雨が降って来た。仕事の支障になるような降りではないが、低温と霧雨の中、発送用の野菜を水洗いする今日は、ちょっとばかりシンドイ日になりそうだな。午前中はビワの剪定に励む。花をつけた枝とそうでない枝がはっきりしている。花に光を当ててやるため、花のない枝を切り落とす。作業しながら思う。ビワって不思議な果樹だよなあ・・・。他の果樹はもうじきいっせいに葉を落とそうかというこれからの寒さに向かって「嬉々として」花を咲かせるのだから。この冬一番の寒さですとテレビは騒いでいるが、人間はこのビワの逞しさをちょっとばかり見習ってもいいかもしれない。

 大根、サトイモ、生姜、ジャガイモ、長ネギ、ピーナツ・・・みんな水洗いが必要だ。僕にとってはルーチンワークだが、今日の低温・霧雨はやっぱりこたえた。最後は、しびれかけた指先でガムテープがうまくめくれなかった。出来上がった荷物を積んで軽トラを走らせる。クロネコ営業所から銀行のATM 、そしてホームセンターに向かった。そこで赤い花を衝動買いした。よく働いた自分へのごほうびとして。荷造りで稼いだカネは3000円。この花は1450円。稼ぎと出費とでちょっとソロバン勘定が合わない気もするが、なに、この真っ赤な花が明日への活力と元気をくれるんだもの、安いさ。

くろうとはどの道の人も、みなあと片付けがうまい。幸田文

いけ花の先生が花を生け終えた後、不要になった枝を三寸くらいに切り揃えてまとめた。その様を見て塵さえ愛おしく思えたと、作家はいう。障子を張り替える経師屋さんは次に家人が掃除にかかりやすいよう片付ける。人情のこもった仕舞い方とその「ゆとり」は、次の仕事への「あと片付けという繋ぎ目」から生まれると。随筆集『老いの身じたく』から。

 4日前の朝日新聞「折々のことば」。解説は鷲田清一氏。僕も百姓としてはくろうとだろう。しかし、後片付けには日々苦心する。荷造りした後には新聞紙、その間から出てきた広告チラシ、野菜の切りくず、段ボール、紐やガムテープの切れ端・・・さまざまなものが我が職場に散乱する。使った道具、すなわちバケツ数個にカッター、ハサミ、包丁、ペン・・・これらも作業台の上に転がっている。それらをきれいに片付けてから次の作業に移りたい。きれいに片付けたなら気分が良い、それはわかっている。だが、特に日暮れの早い今の時期、片付けは後でいい、それよりも寒さに震えている野菜たちに早く防寒のカバーを掛けてやりたい・・・ということで、散らかった職場の片付けは3日に一度くらいになる。たまに来客があるとなると、その3日に一度を繰り上げて、急いでゴミを拾って袋に詰める。ゴミが消えた職場はやっぱり気持ちいい・・・。そこでちょっと昔を思い出す。若い人にはわかりにくい話だろうが・・・スマホもパソコンもない時代。僕が関わっていた医学雑誌には、エックス線写真とか患者の患部の写真とか、さらには各種データを示す図表とかが多く挿入されていた。そのページ組み立て作業を「割付(わりつけ)」という。今はパソコンで自由自在に出来るはずだが、50年近い昔はハサミと糊での仕事だった。印刷所から届いたゲラと、製版所から届いた写真の紙焼きを、それぞれハサミで切って、割付用紙の上に糊で貼り付けていくのだ。そして夕刻・・・わがデスクの足元には、切ったゲラや紙焼きの切れ端が散乱している。これを拾い集め、ゴミバケツに入れて、まだ上司や同僚がいたならば、お先に失礼します、そう言ってタイムカードを押して、地下鉄の駅に向かう、時刻はたいてい8時半くらい・・・これが我がサラリーマン生活なのだった。

 几帳面で綺麗好きの夫との暮らしが辛いと訴えたのは60代女性、10日ほど前の読売新聞での人生相談。

定年退職後、夫の几帳面と綺麗好きが年ごとに強くなってきました。家の掃除をしてくれますが、私は大雑把で、いい加減なところがあります。夫はそれが気に入らず、玄関の箒の掛け方、スリッパの脱ぎ方などあれこれ指図をしてきます。言葉遣いも不愉快です。私がたまに友達とランチに行くと言うと「いいご身分だな」と言われます。残りの人生を自由に思うままに生きたいです。夫の顔色をうかがわないで暮らしたいです・・・。

 うーむ、困ったものだねえ。荷造りで1分1秒を争う日、靴を脱いでいるヒマはない。特に雨模様の日にはガッチリ縛った靴紐がなかなかほどけないのだ。部屋にあるものを取るため泥靴のまま入って行く・・・そんな僕とは対極にある男性だね、この方は。細かい神経の人と大雑把な性格の男女が一緒になったら・・・想像を絶するくらい辛い日々なんだろうなあ。スリッパの脱ぎ方なんてどうでもいいじゃないの。自慢じゃないが、庭のニワトリたちが騒ぐ、誰かが入り口で呼ぶ声がする。あいにく外用のサンダルがみつからなければ僕はスリッパのまま外に駆け出す・・・そんなのを見たら、この男性は卒倒するのではあるまいか。君たちはどう生きるか・・・60代女性に助言する。別れなさい、そんな男とは。妻に去られた男は、独り、スリッパをきれいに並べ、丁寧に箒を掛けてチリひとつない部屋で暮らしていくだろう。綺麗好きは立派だ。でも、そんな暮らしがどうだっていうんだい。それとは別に、もうちょっと、大事なことが人生にはあるんじゃないかい・・・。ふふっ、綺麗好きの人は聞き流していい。大雑把な男の、これは言い訳半分の独り言である。

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