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田舎暮らしの本 6月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

君たちはどう生きるか/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(48)【千葉県八街市】

執筆者:

 11月30日「お金は神か」。朝は冷える。しかし日中は過ごしやすい。今日も昨日と同じ天気である。ほぼ満足する天気だが、4時前には畑から光が消えてしまう。日没が早いだけでなく、南西に20メートルにも及ぶ高い木が並んでいるせいだ。それでもって、夕刻は気ぜわしい。荷造りが完了するのが4時くらい。さあ、真っ暗になるまであと1時間・・・いつも焦るのだ。

 今、ああ、これ観たいなあという映画がある。岸井ゆきのという女優が主人公の『ケイコ 目を澄ませて』。

東京の下町。ケイコは弟とともに暮らし、ホテルで室内清掃係として働き、ボクシングジムに通っている。故郷の母はいつまで続けるのかと気遣うが、ケイコは日々練習に励む。ジムの会長もトレーナー2人も、(耳の聞こえない)ケイコを少しも特別扱いしない。ケイコがジムで練習を始めるや、グローブをぶつけ合う音、靴と床の摩擦音など、物音の新鮮さにびっくりする。そして・・・彼女は両耳とも聞こえないプロのボクサーなのである。

 ストーリーは創作であろうが、ホテルの室内清掃係として働きながらボクシングを続ける、そんな女性の生き方に僕の血が少し騒ぐ。離れたところから都会を眺めている今の僕には、自分に負荷をかけず、「でも懸命に」生きる人が都会には多いように思える。例えば「推し」という言葉を旗印とし、右へ左へと駆け回る人・・・歌手や芸人に熱中するのはいい。しかし、それと同時に、自分自身を時には推して、後押しすることも人生には必要ではないか・・・。

 仕事で行ったり来たりする台所裏の狭い通路。そこにジャガイモが芽を出しているのに今日また気が付いた。以前ここの台の上には小さなジャガイモがいっぱい入った箱があった。いずれは茹でて食べるつもりだったが、ニワトリがその箱をひっくり返し、拾い集めることなしにほったらかしにしてあった。そしたら、ろくに陽の当たらないその場所でジャガイモたちは次々と、ヒョロヒョロながらも懸命に芽を伸ばしているのだ。見捨てておけず、あえて手間をかける、そのわけは、イモたちの姿に僕の心がじわっと打たれるせいだ。ただ転がっただけだからイモたちは土の表面にある。その土の表面に細い根っこをいっぱい這わせ、根っこの先端を必死に地中に潜り込ませようとしている。これこそまさに、懸命に生きる姿だ。僕はそう思う。よっし、うんと陽の当たる、ここよりずっと暖かい場所にオレが連れてってやるぜ・・・。根っこを切らないようにそっと掘り出し、イチゴのハウスの余白部分に植えてやることにしたのだ。きっと春、3月には自家用の小さな芋くらいは収穫できるだろう。

 その作業で入ったビニールハウスでイチゴの花が咲いているのに気が付いた。色がピンクという品種であるせいでもあろうか、目の前がパッと明るくなった。僕の気持ちも明るくなった。やがて氷の張る寒さが到来する。ビニールハウスの中とはいえ、夜は、我々人間が毛布1枚で屋外に寝るような寒さだ。どうなるのか、この花は。実は春のものより小ぶりかもしれない。甘さもさほど乗らないかもしれない。でもいい。この花の頑張りが僕には嬉しい・・・。さて、11月も今日で終わり。そして、11月分の荷物発送も今日で終わりだ。ジャガイモとサトイモを掘る。大根を抜く。ニワトリが近くにいないことを確認し、トンネルのビニールを持ち上げ、チンゲンサイを抜き取る。午後1時に作業を始めて、手紙を書いて、ガムテープでパチンと箱を止めて完了したのが4時。ふふっ、今日も立派に、ジイチャンは3000円を稼いだぜ・・・すぐそばで、退屈なのか、ゴロゴロしている猫のブチに向かって僕はささやきかける。

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