10月31日。「嫌われるのを承知でジェンダーレスに物申す」。10月が今日で終わる。あれれと言う間に今年も残り2か月である。今日はハロウィン。ニュースでやっていた。アメリカは異常気象で今年のカボチャの収穫は例年の半分。ハロウィンにも影響が出ているそうだ。
時は流れる。よく言われるように、老齢になるとたしかに、若い頃と同じなはずなのに、自分の身の上を流れる時間、時計の針が、速く回っているような気がしてくる。でも、時計の針が速く回ろうが遅く回ろうが、百姓の日常、やること、それに全く違いはない。冬遠からじ・・・寒さの中でいかに健やかに野菜たちを育てるか・・・タマネギ、ニンニク、エンドウ、ソラマメ、白菜、春キャベツ、これらの世話に今日も飛び回る1日だった。
さて、今回のテーマ「百姓メシ」。そこについに真打ち登場である。上は、久しぶりに来訪した日にガールフレンド「フネ」が2時間ほどで作り上げた夕食だ。僕が用意した食材、ピーマン、ゴーヤ、ユズ、カボチャ、ジャガイモ、小松菜、生姜がうまく使われている。そこで、唐突に聞こえるだろうが、僕は昨今しきりと言われるジェンダーレスについていま考えてみるのだ。男と女という区別はない方がいいのか、なくした方がみんなにとって幸せなのか。時代遅れの老人のたわごと・・・そう思われてもいい。僕は男と女の違いはある、あった方がいい、そう考える。ひとつの例がこの料理。もちろん男でも料理に立派な腕前を持つ人はいる。しかし、絶対数で言うなら男よりも女の方が、うまくて見栄えのよい料理を作れる人は多い。その逆、肉体労働はどうだろう。これまた、怪力の女性はいる。名前を失念したが、やり投げで世界新を出したあの女性なんか僕よりはるかに大きい体で、きっとパワーもすばらしい。でも、しかし、僕が毎日やっている穴掘り、木登り、孟宗竹を切り出す作業、危険なそれらを平気でやれる女性は限られる。止まり木の上から落とされ、地面に盛り上がっている臭い鶏糞をスコップでバケツに投げ入れ、10往復、20往復と畑に運ぶ作業を全く厭わずやる、やれる、そういう女性は間違いなく限られるだろう。
男と女の違いはある。その違いを相互に補完しあい、和やかに、穏やかに暮らす・・・これぞ我が思想なのである。ジェンダーレスの思想が脚光を浴びるようになったのは、男はこうあらねば、女はこうあらねばという、いわば強制が働いてきたからだろう。強制はいけない。僕のハードな日常作業も、誰かに強制されたら反発するが、どこまでも自発的、立派な料理は出来ない、けれど穴掘り作業ならば出来る、だからオレがやる。フネは、オレが畑仕事を終えて部屋に戻るまでにうまい夕食をこしらえておいてくれないか・・・男と女の分業と協力体制、ひいては幸せな姿がそこにあるのだ。
次にフネが来てくれるのはいつになるか・・・その日まで、我が、シンプルだと言えば聞こえが良いが、実に単純、原始的なメシを口に運ぶ日々が続く。それでも・・・あの土井善晴先生は「料理は愛」だと言った。一緒に食べてくれる人がいればその人への愛。食べてくれる人がいなくとも、自分で料理したものは自分への愛となる。僕は種類だけは豊富な畑の野菜を、切る、煮る、炒めるなどして自分への愛を育む。同時に、いつの間にか居座ることとなった猫のブチに、数十羽のニワトリたちに、忙しい作業の合間、忘れることなく愛を注ぐ。もちろん、畑でじっとしている野菜たちにも、水やりし、鶏糞堆肥を運んでやって、寒さを防ぐために毎夕(次の写真のように)防寒カバーを掛けてやって、そこにもやはり愛を注ぐ。田舎暮らしとは・・・どうやら、小さな愛がいっぱい詰まった、地味だが、温かい、そんな暮らしなのである。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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